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14話 刻の刃


「アレンティ兄弟が偽のアレンティ兄弟にしてやられたそうだな……」


 ギャング、スーフーヤのボスであるマシュマーは低い声で呟いた。

 額から青筋を立て、グラスを持つ手はわなわなと震えている。

 彼の子分のダークエルフが吐き捨てるように悪態をついた。

「あのガキども! 俺達を騙しやがって許せねぇ! 何で偽物は華々しく活躍してたのに、本物はしてやられるんだ! おかしいだろ!」

 子分の無念の叫びをマシュマーは静かに制止する。

「声が大きいぞ。あのガキどものせいで、うちの下っ端連中はアレンティ兄弟を熱狂的に心酔してる。もし、本物のアレンティ兄弟がボコボコにされて、追っ払われてしまったなんてことがバレれば、スーフーヤは足元から崩れる。このことは極秘だ。絶対に漏らすんじゃねぇ」

「けどよぉボス、アレンティ兄弟の腕でも倒せないんじゃ、どうすりゃいいんですか?」

 マシュマーはグラスをじっと見つめ、絞るように声を出す。

「アイツらに借りは作りたくねぇが……」


 すると部屋にノック音が響き、通る声が届く。

「お呼びですか? スーフーヤの皆様?」

 マシュマーは忌々しい顔をしながら顔を上げ、部下に部屋の扉を開けさせる。


 現れたのは燕の海賊の頭目だ。

 マシュマーはその顔を見て、舌打ちをする。

「ちっ……。ずいぶんと鼻がきくな」

「この街で噂はすぐ広まるものです。耳が良いのはエルフだけではありませんよ」

「ふん、まぁいい。テメェの所の武闘派の連中を紹介してもらいてぇ。帝国海軍も一目置く、燕の海賊の力を貸してもらいてぇ。……できるか?」

「フリーの構成員と手の空いてる幹部ならお貸ししますよ。ただし、高くつきますよ」

「前金で500金貨出す。成功すれば十倍にしてやる。痩せた若い男だけは殺すなよ。アイツはここで一生コキ使う。ただし、ガキどもは殺せ。いいな?」

「取り引き成立ですね。すぐに手配しましょう。標的の居場所に検討はついてますか?」

「うちのお抱えの情報屋からニュークの浜辺を彷徨いてるって話しだ。赤髪と青髪の二人組って普通目立つだろ……。何であのガキどもはこういう時に変装しねぇんだ! 舐めてんのか!」

 怒りに任せて、マシュマーはグラスを叩き割る。

 海賊の頭目は涼しい顔で殺意の宣告をする。

「ここに、赤毛と青毛の女の首を届けますよ。リラックスして待ってて下さい。すぐに手配しましょう」

「ああ、頼む。それとな、猫がいるはずだ。俺のペットのアレキサンダーって言うんだ。金は弾むから奪い返してくれ」

「かしこまりました。無事保護致します。しかし、ウチの武闘派連中までも動かすとは、彼女達は何者なんでしょうか?」

「単なる地下闘技場の八百長ファイターと薬屋の小娘だ! クソ忌々しいガキどもめ……」

「後でベッドでうなされてるアレンティ兄弟に詳しい事情を聞きましょう。ではこれで」



 病室でアレンティ兄弟から二人の少女の強さを聞いた海賊の頭目は耳を疑い、驚愕の表情を隠せなかった。


 墓石をぶん投げる怪力と無詠唱魔法の使い手だと!?

 うちの精鋭じゃ歯が立たないぞ!

 マシュマーのクソが!

 これじゃ前金1000金貨でも足りないぞ!

 やむを得ない、御屋形様からダメ元で刻の刃の力を借りるか……。



 刻の刃。

 燕の海賊の最強であり、最凶の武闘派集団であり、帝国海軍はおろか、周辺諸国からも恐れられる力を持つ。

 構成員は全員で僅か12人だが、一人の戦力でルシア帝国海軍すら落とせると噂されるほどの実力を持っている。

 事実、刻の刃のおかげで燕の海賊は東国の果てから大陸中央のルシア帝国まで勢力を伸ばした。

 さらに事実、現在、余りの強大な力を持つ刻の刃に、傘下に置いている燕の海賊達すらその扱いに苦慮している。

 実際、刻の刃に逆らえる幹部は燕の海賊達はいない。


 燕の海賊の頭領は嘆く。


 狼はやはり飼い慣らすことはできなかったと。



 大陸最強の海賊達がシウラン達の命を狙う。

 シウランは知らなかった。

 狼の牙がその首を噛み砕こうと動いていることに。


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