12話 巡礼者の墓所
「聖光」
ライエルが魔法を放つと通路に光が照らし出される。
酷い悪臭と不衛生な場所に来たことにルァは後悔する。
水路というより下水路の言葉が相応しい。
足場には大きい鼠がウヨウヨしており、水路の水は酷く濁っていたし、妙な悪臭を漂わせていた。
シウランが濡れるのも構わず水路を歩く。
ライエルも続く。
ルァとネムは通りの端でなるべく濡れないように水路を進んだ。
「やっぱり魔法で光をつけて良かった。この下水の水は油です。下手に松明なんて使ったら燃えてしまったかもしれない」
そうライエルが胸を撫で下ろすと、シウランが先に行くように促す。
「能書はいいから、さっさと行くぞ。この先に宝があるんだな?」
「遺跡の巡礼者の記録、手掛かりだ。宝はまだないよ」
次々に湧いてくる鼠達にルァとネムは身の気がよだつ。
しかし、好奇心に駆られたライエルとシウランは気にせず、地下道を突き進んでいく。
そして地下道の最深部、そこにそれはあった。
棺だ。
その棺には古代文字がびっしりと書かれていた。
ライエルは夢中になってその文字を手帳に書き写す。
「巡礼者は確かにいたんだ! ここは墓所のようだね。おそらく数百年前まで、遺跡の巡礼は異端として取り扱われてたんだ! だからこんなところで埋葬されてたんだ。きっと棺の中の人物は巡礼者でも特別な人物だったんだろう!」
急に饒舌になるライエルに三人は引く。
下水路の鼠にウンザリしたルァがライエルにせっつく。
「私達考古学研究にきたんじゃないのよ。その棺の文字から、遺跡の手掛かりはありそうなの?」
写本に夢中になりながらライエルは得意気に断言する。
「バッチリだ。この街のどこに、いつ、どうやってやれば遺跡に辿りつけるか克明に書かれてる! 凄いぞ! 遺跡の巡礼者の中には古代王朝の王族までいる!」
シウランはライエルが夢中になっている棺の隅に掘られた文字は読めない。
しかしそこの端にあった数字だけは読めた。
「9999? 古代文字でも数字は同じなんだな」
ライエルが自慢気に答える。
「ああ、何故か古代民族も数字は現代と同じものを扱ってたらしい。いや、古代で発明された数字の概念が現代まで影響を及ぼしてるって言うのが正確な答えだな」
三人はライエルの様子を見て、しばらく時間がかかりそうだと落胆した。
すると、ネムが鼻をスンスンとさせてシウランに尋ねる。
「なんか焦げ臭くない?」
「ああ、臭うな。焼き鳥屋の匂いがするぜ」
異臭に気付くと、シウラン、ルァ、ネムの眼前には異様な光景が現れた。
大軍と成した鼠が大挙して現れた。
その後を追うように、燃え盛る炎が鼠を追うように迫って来ていた。
下水路の油に火が引火したのだ。
異常事態にシウランは機転を効かせる。
考古学研究に夢中になってるライエルをどかし、棺の中をこじ開ける。
中から現れたミイラを下水路に放り込み、棺をひっくり返して、下水路に浮かべた。
「みんな! 下水路に潜って、棺の中に入れ! それで炎はやり過ごせるかもしれない!」
皆が我先にと下水路に潜る。
ライエルだけがシウランの罰当たりな行為に胸を痛めていた。
轟音と焼かれる鼠達の絶叫が棺の中から聞こえる。
水に濡れたルァが打開策をライエルに尋ねる。
「ちょっと、火が棺の中まで入り始めてるわ! なんか抜け道とかないの!?」
ライエルが気まずそうに答える。
「あれだけ厳重に隠された墓所なんだ。抜け道があったら、とっくにそこから入って来ているよ……」
三人は絶望した。
このまま人知れず焼け死ぬ運命なのかと。
しかしシウランは違った。
野生の勘が生き残る術を嗅ぎ分けた。
待て、鼠はどこからやって来た?
当然、外からだ。
この下水路は外に繋がっているはずだ!
シウランが再び下水路に潜ると水中の中で、下水路の壁の中に無数の鼠が大挙しているのがみえた。
そこか!
シウランは鼠が大挙している壁を躊躇なく破壊した。
泳いで壁の向こうに行くと、外に通じるはずの部屋がそこにはあった。
部屋はまだ火が及んでいない。
階段もある。
すぐに他の三人に知らせるため、燃え盛る下水路に飛び込み、脱出を促した。
何とか窮地を脱した四人。
しかしこの部屋も次第に火に包まれていく。
迷ってる暇は無い。
階段を登るのだ。
階段の先には小部屋があった。
出入口もない閉ざされた部屋が。
焦ったシウラン、ルァ、ライエルは部屋を隈なく調べる。
シウランが堪らず叫だ。
「きっと秘密の出口がある!」
ネムだけは落ち着いていて、三人が見落としていた椅子を見つけ、腰をつけようとした。
「こう言う時は慌てても仕方ないよ。スラムでは飢えた時ほど読書しろって言うんだ」
ネムが椅子に腰をかけると、仕掛けが発動した。
床が変形し、地上への階段が生まれたのだ。
唖然とする四人。
シウランはネムの頭を撫でて、褒める。
「流石、頼れる俺らの妹分だぜ」
シウラン達が階段を利用し、下水道から脱出すると、そこは公共墓地の廃井戸の中だった。
井戸から抜け出す四人に殺意の視線が送られていた。
とっくに殺気に気付いたシウランは臨戦態勢の構えを取りながら、手招きする。
「来いよ、どうせ俺たちをバーベキューにしようとしたのもテメェらだろ。お礼はたっぷり返してやるぜ」
シウラン達の姿の前に現れたのはアレンティ兄弟だった。