10話 スラム流取り調べ
薄明りのほの暗い部屋。
ライエルは目覚めた。
気付けば、身ぐるみが剥がされている。
パンツ一枚だ。
しかも股が痛い。
よく見れば三角木馬の上に、股がるように拘束されていた。
「よぅ、イケメン兄ちゃん。目覚めの気分はどうだ?」
シウランが仁王立ちして、ライエルに向き合っていた。
「今から質問する。正直に答えろ。股にぶら下げってる球がこうなるぞ」
シウランは手に持っていたガラスの水晶を、その握力で粉々に砕く。
恐怖で怯えたライエルは堪らず身震いする。
さらにルァが追い討ちをかけた。
「シウラン、矛盾って言葉知ってる? ここに超強力な下剤と最高に効く下痢止めがあるのよね。これを同時に飲ませたら、そいつのお腹はどうなるのかしら? 是非試してみたいわ」
ネムが溜息を吐きながらも、脅す。
「二人とも部屋を汚すようなことはやめてよね。普通に爪の間に針を刺すとかでいいじゃん」
少女達の物騒な言葉にライエルは恐怖に駆られながらも問いかける。
「君達は何者だ!? なんで僕をこんな目に合わせるんだ!?」
シウランは無言で、部屋に転がっていた鉄の棒を拾い、それをグニャリと曲げる。
「質問すんのはこっちだモヤシ野朗! 猫はどこにやった!?」
シウランの問いにライエルは一瞬戸惑いながらも、深く呼吸して答える。
「猫? ……やっぱりスーフーヤの手先か。死んでもギャングなんかに屈するものか!」
「ルァ、下剤と下痢止め寄越せ。今から人体実験だ。腹痛で苦むそいつの腹に蹴りをぶち込む。何発耐えれるか試してみよう」
薬品を持ったルァが近づくと、ライエルは堪らず口を割る。
「嘘です! ちょっとカッコつけたかっただけです! だから酷いことしないで!」
シウランがライエルの下にある三角木馬を蹴りながら、尋ねる。
「猫はどこにやった! あと、ウチらはギャングじゃねぇ。安心しろ」
「スーフーヤの一味じゃないのか? 残念ながら猫はここにいないよ。安心しろ、安全な場所に隠してある」
「だからどこにやったんだよ!」
「取り引きだ! 僕を五体満足で解放して、僕に協力するなら、猫は渡そう!」
「自分の立場がわかってねぇようだな? ルァ、ネム、こいつは女の前で大をお漏らししてぇ変態らしい。薬品を飲ませろ!」
ライエルは必死に抗弁する。
「僕にそんなことしていいのか! 妙な真似すると、君らが探してる猫は動物の森に帰って、野生の野良猫になるぞ!」
ライエルの虚勢にシウランが思わずたじろぐ。
「ぐ……! お前に協力ってなんだ!? ギャングどもを叩き潰すのか?」
「この街に眠る遺跡を見つけだすことさ。大丈夫、僕は古代語が読めるトレジャーハンターだ。この街には他に古代語が読める人間はいない。ギャング達を出し抜ける!」
ルァが眠そうな顔をして、シウランに提案する。
「私、そんなものに興味ないわ。シウラン、明日から動物の森で猫を探しましょう。こいつはギャング達に高値で買い取ってもらいましょう」
ルァの脅しにライエルは取り乱しながらも、訴える。
「遺跡には未知の財宝が眠ってる! 世界にはそれで一国の王になった者もいるんだぞ!」
ルァは踵を返し、ネムに言いつける。
「財宝が待ってるわよ。ネム、そこの紳士に服を返してやりなさい」
ルァの態度に、呆気に取られたネムがボヤく。
「……ルァって、ホントお金に目がないよね。シウランは猫のことしか考えてないし……。いいの!? こいつに協力するってことはギャング達を敵に回すとことになるんだよ!?」
シウランは床に置いてあった銅貨を摘み、指の力でそれを捻じ曲げる。
シウランの握力の凄まじさに、ライエルとネムが目を開く。
「キアヌの為なら、世界中敵に回したっていいぜ!」
ネムは溜息を吐いて、ライエルの拘束を解く。
すると目の前の男の異変に気付いた。
ライエルは恐怖の余り、失禁していたのだ。
ネムは思わず後ずさる。
シウランはそんなライエルを気にすることなく、握手をする。
それを見て、ネムは思わず嫌悪感を抱いた。
構わずシウランは威勢の良い声で自己紹介する。
「キアヌのために、一緒に遺跡とやらを探してやるぜ。俺はシウラン、そっちの青髪がルァ。向こうのチビがネムだ。宜しく頼むぜ、ライエル!」
ライエルは女の子達の前で失禁して、非常に気まずそうな顔をしながら、小声で挨拶する。
「……トレジャーハンターのライエルです……」
大丈夫かコイツら、みたいな顔しながら小さなネムは深く溜息を吐いた。
項垂れるネムの肩をルァは叩く。
「大丈夫、あれでもシウランはこの街で喧嘩最強だから……。頭は残念だけど……」