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デチャルネーレ  作者: ハゲタカ
Giant killing
24/26

リーチフォーザムーン

喫茶店、関係者が経営しているとはいえ、一般客も出入りしているこの店のど真ん中のテーブル席での話し合いは続く。


「部活動、という名目で帰省するつもりだ、よって他の部員も連れて行く」


会長の豪快な発想に俺はジェットコースターの下るときのように両腕を上げていた。

気圧されていた。あれ?殴り込みの話だよな?


「会長、それは関係ない奴を守りながら攻めるって言う話でいいんですかね?」

「そうだとも、残念ながら奴らに我らの面は割れている、魔導師のみを連れてくることは奴らに警戒されるだけだ」

「え?面割れてんの?」

「ここにいる全員、既に調べられているだろうな」

「恐らく私に関しては調べられてはいないものの、調べられないという点で怪しまれているでしょう」


銀音さんに関しては個人情報をがっちり保護されてるんだ。…なんで?


「潜入するなら現状最善の策ではあります、わざわざ人質になりうる人間を連れ込むのですから」

「会長としてはあまりよく思えないが、我らの力をもってして全力で死守する前提で話を進めよう、そのためには…」


会長は俺を指して言った。


「志木、貴様には強くなってもらわなければならない」


言われなくとも日々精進してますよ。


------------------------------------------------------


過酷と言うべきか、ありがた迷惑の時間と言うべきか、俺はさらに鍛錬に追われることになった。

学校から帰っては鍛錬、朝登校しては鍛錬、おかげで非常に健康的な生活が行われています。


「いやなんで運動部みたいなことしてんだよ」


ばたりと部室の机に突っ伏した直後、石井に突っ込まれるが俺にはそれに対応する気力が出ない。


「ふ、この男は世界と戦っている、雑魚は引っ込んでいろ」

「なんかめんどくせえことに絡まれてんのは分かった」

「ま、まあなんとか隕石ぐらいまでは止めて見せるよ」

「そんな物理的な話か?将来は宇宙飛行士になるのか?」

「なる気はねえけど」


実際、将来の夢とかわからんな、俺は一体何になりたいのか。

結局のところ、割と空虚に日々を過ごしているのではないか?

いろんなことに巻き込まれているものの、思考が保守的な姿勢から抜け出せずにいる。

ただこの日常を継続させることだけが俺の理想だ。

戦う理由だってそうだ。相手が大層な主義主張を掲げている中、現状を壊してくるからダメ!と叩き伏せるだけ。

そういう意味では俺は悪か。怠惰に日常を謳歌するだけの、発芽しない種のような、開花しない蕾のような怠け者。

何もしていないだけで悪者か…


「生きるのも理不尽なもんだな」

「生きるとは理不尽を伴うものだ」


コトッ、と俺の机に紙コップ、熱々のブラックコーヒーが置かれる、会長によって。


「俺ブラック飲めないんすけど」

「砂糖とミルクは好みで入れろ」


わざわざ入れてくれたのはいいが砂糖とクリーミングパウダーはポットの近くにあるのであんまりありがたくない。


「会長、一体何やるんですか?わざわざ会長の家で」


石井が質問する。


「ふむ、皆と小旅行がしたくてな」

「小旅行?」

「私も実家には久しく戻っていない、だがただ一人で帰省するのもつまらんだろう?」

「へー割とどうでもいい理由っすね」

「いやか?」

「いえ、正直向埜家本家がどんなものか気になるんで」

「そうか、食事は豪勢なものを提供しよう」


以上、囮役を引き入れる文言でした。無知って怖いね。


「まあどちらにせよ、二日間は滞在することになる、暇になるだろうから課題は作っておこう」

「えぇ!?」

「一応、部活動と言う名目だからな、顧問も連れて行く」

「顧問…顧問ねぇ」


石井が教室の隅へ目をやる。

本に熱中する謎の女がいた。


「えへっ、えへっへっ」

「…」

「えへっ…え?」


視線が集まっていたことに気が付く謎の女。

これがうちの顧問、阿武小華先生です。

この人大丈夫かな?


「よろしくお願いします、阿武先生」

「え、ええ、小旅行…?」

「私の実家へ来る話です」

「え、ええええ!?向埜さんの家って」

「大丈夫です、何か起こった際は我々で責任を持つので」


この責任ってのは殴り込みの際の被害ってことだよな?相当自信があるらしい。


「それと志木」


俺を名指しで呼ばれる。


「ちょっとついてこい」


------------------------------------------------------


向埜家のお嬢様に連れられてきたのは学校の屋上であった。まずい、シメられる!!


「根室に何か言われたか?」

「え?」


会長は手摺に両腕を置いてこちらを見る。


「気掛かりだった、奴が私がやられた原因がお前にあると思っているんじゃないかと」


ミノタウロスにやられた時の話か。実際俺はあの時に加勢していれば…

いや、会長諸共残骸と化していたか。あの巨大さに太刀打ちできる気がしない。


「あー意外と気にするんですね」

「こう見えて繊細な性格でな、お前が理不尽な怒りを買っているとなると放っておけんのだ」

「え、それって…」トゥンク

「扱いやすい駒が不調だといざという時に手間だろう?」

「あ、はい」


ちょっとときめいたが案の定だ。まあ期待なんてしてないけど、会長だし。


「んまあ、ちょっと揉めただけですよ、俺が会長の隣に立つだのなんだのと」


回りくどい言い回しだったが、結局のところ会長が好きなんだろ、あいつ。


「会長のことが大事なら素直にそういえばいいのに」

「…そうか」


俺は軽いノリで言ったが、会長は何やら重苦しい雰囲気で表情に影を落とした。

なんか言っちゃまずかったか?いやでも言われたのは事実だし恥ずかしいことでもないし…


「一度あいつにはちゃんと言い聞かせた方がいいようだな」

「そういや、会長と根室ってなんなんですか?」

「所属組織か?向埜家だろう」

「いやそうじゃなくて…幼馴染?」


パッと思いついた関係。向埜家という組織にいる割には根室は向埜じゃなくて根室だし。


「…家同士の付き合いでな、幼馴染と呼べるほど対等な関係でもなかった、が別に私自身は可愛い後輩として接してきていたがな」

「やっぱお嬢様と従者みたいな関係なんすか?」

「奴はそう思っているのだろう、気負い過ぎるタチなのでな」


気負うっていうか、あいつはそれに酔っている気がする。

じゃなきゃあんなキャラは貫けん。

会長は手すりに背を巻きながら空を見上げる。危なくない?


「…次の戦い、お前の命は保障できん」


すごい怖いこと言いだしてきた。


「おいおい、守りながら戦うんじゃないんですか?」

「お前をじゃない、非戦闘員、じゃなくて無関係な部員の安全は保障するだけだ」


まあ、会長も俺を頼ってる形だしな。それも仕方ないだろう。


「それに、貴様には銀音がいるだろう?」

「それはそう」


ついでに陽太郎もいる、今なんかナヨナヨしてるけど。


「ということで、私は目的を達成するために貴様に目をかけてはやれん、だが精一杯の激励の言葉を掛けてやるとするのなら…自衛の手段は持っておけ」


いやに具体的なエールであった。


「そこは強くなれって言って欲しかった…」

「同じ言葉を繰り返すのは風情がないからな、言葉のレパートリーは増やしておきたいものだ」


すっと顔だけを急に上げる。びっくりした。

そして目を細める。


「…?なんすか?」

「いや、杞憂だったか、お前には」

「はい?」

「魔導師は皆、人ではない、故に私たちは殺すことに抵抗はない、お前はどうだ?」


今勉強中のそっちの業界の倫理観を聞かれたのだろうか?えらく急ではあるけど…


「いや、そりゃ、俺は殺さないっすよ?」


戦う上でいつか聞かれるとは思っていたが、人の命を奪うことは絶対にしない。それだけは心に決めている。


「殺さなきゃ仲間が殺されるとしてもか?」

「それ以上に強くなれって言ってんでしょう?分かってますよ、それに…」


これは言うべきか、言わないべきか迷ったが、いっそ言ってしまったほうがいいか。


「四肢を切り落として口でも塞いどきゃ何もできんでしょ」


自分でもドン引きする答えだと思う。会長も口を空けて唖然としてた。


「…意外と残酷なことを考えるものだな」

「実際できるか分かんないですけど、でも出来たら殺すよかマシだと思いますよ」

「そうか、いや、そうだな」


何か一人納得したようにうなずくと、会長は校舎内へ戻っていった。


「期待しているぞ」


ただその一言だけを残して。

結局は俺の覚悟を問いただしたいだけだったのだろうか?

まあ俺も正直巻き込まれ被害者ぶってはいるが、他人のお家事情に首を突っ込むとなればそうは言ってられないか。


「貴様がそんな思想の持ち主とはな、俺の慧眼も中々の物だったか」


上から声がしたので見てみると、出入口の上のタンクの裏から根室が姿を現した。


「聞いてたのかよ、このムッツリが」

「趣味ではない盗聴も役に立つものだな、俺にはそれをする権利がある、スペクターだからな」

「影が相当薄いんだな」

「あまり評価するな、ありがたみまで薄まっては興が削がれる」


何故か満足げだった。悪口で言ったつもりなのになんで好感触なんだよ。


「…いま一度聞きたい、お前は今から協力することについて、理解しているか?」

「理解?」


殴り込み、潜入、それを天下の向埜家にするそれ即ち…


「下剋上だろ?」

「具体性を持たせろ、何をもってして下剋上となる?」

「やばい組織に関わっている向埜家のお偉いさんをとっちめる、であってるんだよな?」

「向埜家も大概危険な組織ではあるがな、そしてそのとっちめるの意味、理解しているんだろうな?」

「え?えっと…」

「殺す、と言うことだ、会長の家族を」


根室は深刻な表情で言った。


「さっきは会長にあのように言っていたが、今のお前に人を殺さない余裕と強さがあるようには見えない」


スタっと、上から降りて根室は俺に何かを差し出した。


「だとしても、お前は譲る気は無いんだろうな」

「お、おう?」


渡されたのは紙、依然渡された、北川の時に使ったあれだ。

なんかすごい回復する符術。


「最後の一枚だ、お前に賭ける」

「ええぇ、もう無いの?」

「向埜家を落とせば補充できる可能性はある、勝利を信じろ」


そう言って根室は屋上から去っていった。

俺は手元の紙、というか実質的な護符を見つめる。

これがなければ俺たち死んでいたかもしれないんだよな。紙なのにズシンと重圧を感じる。


「それが向埜家の符術ですか」

「うお!?え?」


どこからか銀音さんの声が聞こえたと思ったらすぐ隣に来ていた。こわ。


「それ、預からせてください」

「え、どうするの?」

「解析してコルセルニの新たな魔導として発展させます」

「発展するんだ、これ」


俺はすぐさま銀音さんに渡した。


「えらく素直ですね」

「そりゃあ、上手く使える人の手に渡った方がいいでしょ」

「自身の身を守った力を惜しむことなく渡すのはあまり良い判断とは言えませんよ、この先不安です」


至って普通の対応なのにこの言われよう。

しかし、ごねたらそれはそれで厳しい評価が下されそうだな。


「駄々っ子じゃないんで、それに守ったつってもビギナーズラックみたいなもんでしょ」


なんならあの時はこの符術がどんな力かも知らなかった。

プロなら前よりいい感じに扱ってくれるだろう。…信用しすぎか?


「向埜蒐の言う殴り込みの前に、あなたへの訓練量を増やします」

「いっ!?」

「強くなりたいんですよね?先ほどの会話は聞いています」

「あ、ひゃ、そんな…」

「二言はありませんね?」


では、と銀音さんは屋上から飛び降りた。アクロバティックな去り方で心臓に悪い。

まあどちらにせよ、こなさなければいけない事は決まっているんだ。

心して臨むとしよ…うかと決心したところにすたっと陽太郎が屋上に降り立った。


「よっ、話は聞いていたぜ」

「お前もか」


なんだ?みんな俺のこと大好きかよ。屋上にどんだけ潜んでんだよ。


「じゃあ、早速特訓しに行くぞ!」

「どこへ?」

「ドレスデンの訓練所だ」

「ドイツに行くのか?」

「喫茶店に決まってんだろ?ほら行くぞ」

「いやでもお前…」


有無を言わさず襟元を掴まれて連れて行かれる。

あんた出禁食らってたでしょうが。


------------------------------------------------------


「陽太郎は役に立たないので今日は私が実践を担当します」

「まったく計画性ないなあいつ」


訓練所にて、俺は予想通り陽太郎抜きの訓練に向き合うことにした。

あいつ入店前に入口でマスターに突き飛ばされてやんの、去っていくしょぼしょぼした背中は頼りなかった。

とりあえず訓練の準備、一応防具とかの装備をしながら話す。


「相談なのですが、今夜、あなたの家に上がっても大丈夫でしょうか?」

「え、ああ、うん、いいけど何するの?」

「座学です、遅くなるので迷惑にならないか懸念がありますが」


銀音さんが今夜は俺につきっきりか、はっ!?


「銀音さん、遅くなるならうちに泊まっていきますか?」

「そうですね、可能なら都合がいいです」


おお、女の子が俺の家に来るのか。思わず口角が吊り上がる。


「…腑抜けて見えますよ」

「いえいえ!むしろ俄然!やる気が湧いて参ります」

「そうですか」


俺の気合の入った受け答えに銀音さんは興味なさげに頷く。

意識はしてもらえないようだが、いやでも、警戒はされないほど信頼されているということでは?

俺の、人柄をね!


「弱いんですから早く強くなりましょう」


無警戒さの理由をサラッと口に出された。


…俺の弱さも折り紙付きってところかしら。


------------------------------------------------------


帰って衣里子さんにお泊りの話をしたところ、ノリノリで許可してくれた。


「夕飯までごゆっくり~」


部屋まで案内した後、そう言って扉を閉めた。爆速だった。


「何を勘違いしているのか知りませんが、事がスムーズにいってありがたいです」

「そですね」

「早く魔導書を開いてください」

「はぁい」


ちょっとテンションが上がっていたところに冷や水をぶっかけるような銀音さんの言葉。

ちゃぶ台の上に魔導書を広げる。

俺は失望した。過大評価とはこういうものだと心で理解した。

銀音さんは、女の子じゃなかったんだ。女の子ってのはもっときゃぴきゃぴしててウフフみたいなテンションで会話してくれるはずなんだ。

脳裏にちらつく御陵がいる。あいつ女の子だったんだ。


「魔術の応用力は理解できましたか?魔法は?自分の得意分野は?」

「あわ、あわわ」

「まだここまでしか理解できていないんですか、軽口叩いている場合ではありませんよ」


意気消沈。俺は夕飯までの間、冷酷無比な調教師を前に魔導の基礎を叩きこまれた。

そう、無理やり叩き込まれた、叩き込まれた知識は俺の理解力が拒否反応を起こして消化不良である。


「夕飯で来たわよーってあれ?」


泡拭いて気絶していた俺の耳に衣里子さんの声が届く。


「この辺にしておいてあげましょう」

「うぅ、寛大なるお慈悲に感謝を」

「そうやって軽く使っていると言葉に重みがなくなりますよ」

指摘もすごい厳格、ちょっとしたおふざけも絶対零度で凍り付かされる。

現代人泣かせである。


「食事を終えたら私直々に問題を作るので休憩していてください」

「はい」


とりあえず夕飯を終えて、俺はベランダから夜景を眺めていた。

2階とはいえここは住宅街、同じような景色しか見えない。

見るものといえばやはり月である。満月だ。

すごい、綺麗で、その光から何かすごい高揚感を受け取れる。

後ろでは銀音さんがちゃぶ台で真剣に魔導書とノートを見比べながら問題を作っている。

俺は、最初からこうだ。こうまでお膳立てされても弱いまま、馬鹿なまま。

成長のない自分に少し苛立つ。

会長が一度やられたのも俺が弱いから、銀音さんが俺を守ってくれるのも俺が弱いから。

俺は、弱い。強くならないといけないのにな。

強くなった自分の姿を想像してみる。

――私を超えるとは、よく頑張りましたね。

銀音さんが褒めてくれる。頭をなでてくれる。

悪くない。


「悪くないぞ!」


思わず口に出ていた。通行人がなんかこっちへ不審者を見る目をしていた。

いったん落ち着こう。丸い月を見上げる。

月、決して届かない高さにあるあの光。

それに向かうことを憧れと表現するのだという。

俺は手を伸ばした。ただ何となく、衝動的に。

まばゆい光に包まれて俺は、どうにもならなかった。

なるわけないだろう、ただの心意気の問題なんだから。

腕を下ろし、ため息をつく。

何かに期待していた、魔導的な意味があるのかと。


「ん?」


失望した矢先に体に違和感があった。

謎の浮遊感、足元を見ると俺の足は浮いていた。


「え」


そのまま上がっていく、月へ向かうように。


「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」


俺は抗い、手すりにつかまった。


「銀音さん銀音さん!たーすけてー!」


部屋にいる銀音さんに呼びかけるも反応なし。ノートに目が釘付けである。

なんでぇ!?


「あ!」


遂に手すりから手が離れ空へ吸い込まれていく。掃除機に吸い込まれるゴミの気分ってこんな感じか、味わいとうなかった。

ダメだ、地面がすごい遠くなっていく。ここから戻れる想像ができない。

できることは…俺のポケットにあるスマホか。

110か?119か?多分119だな、はしご車があるしな。

しかし、繋がらず、俺の身体は更なる高みへ…

実は上空って圏外?そんなぁ。

がむしゃらにスマホをいじって通話を試みる。

誰でもいいから応答してくれ!

そんな時、ふとつながったのはこの女。


「やっほーチャラ男ぉ、どしたんご?」


御陵恵でしたとさ。


「御陵様御陵様!どうかなんでもお礼をしますのでこのわたくし目が地球から追放されるのを阻止していただけないでしょうかぁ!?」

「えー何言ってんの?」

「トンチキな話かもしれないがロケット有史号は今地球から月へ放たれようとしているんだ、誰かが止めなければ俺のキックが月を破壊して綺麗な月が拝めなくなるんだ」

「大変だね、もう切っていい?」

「待て待て待て待て」


どう考えても話が通じない、こんな異質な状況は俺だっていまだ信じられない。


「そうだ、月を見上げてみてくれ、多分それが最後に見る満月だと思う」


俺はここで死ぬわけにはいかないので何とか月へのキックを決めていこうと思う。

俺VS月の構図だが多分御陵の応援さえあれば勝てるって。


「え、チャラ男月に勝てると思ってんの?」

「信じて!」

「うん、じゃね~」


そして御陵からの通話は途切れた。


「チクショー!!」


全てに見放された俺は月に腹をくくった。

ワンチャン、月に着陸できるか?

しかし加速していく、月はもう近い、小さく見えたクレーターは大口となって俺へ接近してくる。

いや接近してるのは俺か。

もう月面へとぶつかる。結果は目を開いてのお楽しみと言うことで両腕を交差させて目を瞑った。

そして…加速が終わる。ど、どうなった?

目を開けると俺はマットレスの上に居た。

月の上に敷かれたマットレス。今俺が地球から月への38万kmぐらいの距離で加速していった衝撃を吸収したマットレスだ。


「すごい!こんなマットレスがあるだなんて!」

「お値段以上、メトリ」

「売ってんの!?」


シームレスに謎の声との掛け合いが始まった。謎の声の聞こえた方へ向くと謎の子供がいた。女?いや、男の可能性もある。


「ようこそ、月へ」


白い髪、青白い肌、ボロ衣を纏った不健康そうな見た目は俺の予想だと人間じゃないと思う。


「私は月の神、ネイトだ」


ほらね、言わんこっちゃない。

人物ノート㉓


阿武 小華


玲瓏高校の教師。現代文担当。

文学部の顧問をしているが、活動に特に関わっているわけではない。

部室に来ては読書するだけの形式上の顧問であり、実質的な文学部の活動方針は向埜蒐が握っている。

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