1話 緊張の震え
ついにこの日が来た
20XX年 春 この日を全世界の人々が待ち望んできたのだ。
今日は僕の歴史における大きな転換点となるだろう。
今年で16歳の高校生2年生になる青島勇太はこの日をずっと待ち望んでいた。
「布団からでるのが嫌でチャイムギリギリに登校する僕が、横浜のビック武道館に一時間前に来れるなんてやっぱり愛の力って偉大だよね」
手のひらを太陽に透かして、喜びを表す。
ちなみにこの男は今まで電車に乗ったことがなく切符の買い方をお婆さんに尋ねたり、はきそうになってしゃがんだら盛大に転んだという過去を持っている。
ここは大手Vtuber事務所オリジナルマジック(株)が経営するビッグ武道館
普段は所属ライバーが歌や踊りを配信するための特設スタジオなのだが、今日はそうではない。
今日は自分の推しに一人間として知ってもらうための特別会場なのだ。
そんな勇太はライバーの一人「春風ともり」に会うためにやってきたのだ。
チャンネル登録者は80万人超え、ライブ配信では一回に300万円を動かすこともあるトップVtuberだ。
彼は応援し始めてはや3年経ち、メンバーシップにも約2年間入り続けている。
だが、コメントをしても一回も拾われたことはない。
そんな悲しみも背負ってここに立っているのだ。
推しに指紋だらけの画面越しじゃなくて生で会える。
そんな期待と緊張で手が震える。
僕はグッと震える手を押さえて大行列の会場へ向かった。




