十二
謎の鍵探検隊は石田家のほとんどの部屋を調べ終えた。残るはあと一室だけになった。
「あとはこの部屋だけね」
みゆきちゃんはその部屋を開けようと取っ手に手を掛けた。
その頃、勇一はみゆきちゃんを探しに家の中をうろうろしていた。
(どこにいるんだろ? みゆきちゃん。あいつらと一緒じゃなきゃ良いけど……)
勇一の気持ち等知る由もないみゆきちゃんはその部屋を開けようとしていた。
「あっ、開かない?……鍵がかかってるの?」
その様子を見ていた亜未がみゆきちゃんに言った。
「兄の部屋は開かないから」
「え?」
訳が分からないみゆきちゃんはこの部屋の人の話を双子から聞くことにした。
勇一は和室に戻っていた。
(みゆきちゃんのバッグはあるしな~。あいつらの部屋にもいなかったしな……まさか、俺の部屋ってことはないよな……だって、今日もちゃんと鍵掛けてあるし。あそこの部屋に隠してある合鍵をあいつらが見つけるとは思えないしな……)
勇一は一瞬寒気がした。
「さむっ! ……まさかね……」
雨がぽつぽつと降ってきた。
勇一は身の危険が迫ってきているような気がしてきた。
「みゆきちゃんの携帯に電話してみようかな?」
勇一はみゆきちゃんの携帯電話に電話した。
鍵の掛かった部屋の前でみゆきちゃんの携帯電話が鳴った。
「あれ? 誰からだろう」
みゆきちゃんは携帯電話を取り出し、勇一からだと知るとその電話に出た。
以後、勇一とみゆきちゃんの携帯電話でのやりとりだ。
「もしもし、みゆきちゃん?」
「どうしたの? 勇一くん」
「『どうしたの?』じゃないよ。みゆきちゃん今、どこにいるの?」
勇一は心配そうな声で訊いた。
「どこって……勇一くんの家の……言えない!」
「何で?」
勇一はみゆきちゃんが答えるのを待った。
「だって……恥ずかしいもん」
「恥ずかしいって何が?」
訳が分からない。
「……と……トイレなの! 今!」
「トイレ?」
どうやってトイレの場所を知ったのだろうか? 一度も家に遊びになんて来たことがないのに。
「そう。トイレ」
「よく分ったね。トイレの場所」
それにしても時間がかなりかかり過ぎている。
「えっ? あ! 和室で一人になった時に勇一くんの妹さん達に会って……」
「そうなんだ? それにしてもトイレ長くない?」
「えっ! そ、そう?」
「だってもう十分は経ってるよ?」
「うっそー? そんなに経っちゃった?」
何だかみゆきちゃんの方からこそこそと小さい声だが聞きなれた声が聞こえてくるような気がした。
「トイレの中に誰かいるの?」
「いるわけないじゃん! トイレは一人でするものでしょ?」
「だよね」
「そうだよ……ちょっと! あ、亜未ちゃん」
(亜未?)
「兄よ、聞こえるか?」
「なっ! 何で亜未がそこにいるんだよ!」
亜未が今から行うことを簡潔に言った。
「トイレな訳がないだろ。今から愛しのみゆきちゃんの手で兄の部屋を開けさせてもらう。じゃ! そーいうことで」
ピッ! と勢いよく通話が切れた。
「俺の部屋を開ける? ……鍵もないのに? ……ッ!」
次の瞬間、勇一はこれ以上ないくらいの速さで階段を駆け上がり、自分の部屋を目指して全速力で走った。
双子は電話を切ると同時に言った。
「この部屋の鍵だと思うからこれで開けてみて」
麻奈はみゆきちゃんに謎の鍵を渡した。
その鍵を渡されたみゆきちゃんは言った。
「本当に開けても良いの?」
亜未と麻奈はうきうき気分で言った。
「どーぞ、どーぞ。ごゆっくり」
みゆきちゃんは再度双子に確認した。
「じゃあ、開けるね?」
「うん!」
みゆきちゃんが鍵穴に鍵をさした。
カチッという音がした。
「おおー! 開いた~」
その様子を走りながら見ていた勇一は大声で叫んだ。
「開けちゃダメだ~~~~!!!」
だが、もう遅かった。
勇一は思っていた。
(開かれてしまった。誰にも見せたくなかった。特にみゆきちゃんには。あんな部屋を見たらみゆきちゃんは俺を嫌うだろう。趣味だらけの部屋を見たら。そんなこと最初から分かっていた。告白をする前から。だけど、言ってしまった。どうしようもなく君が好きだから。止められなかった。この気持ちを。どうしても言いたかったから。俺は君が好きだと。たとえ勘違いで告白してフラれてしまったとしても君には知られてほしくなかった。俺が今、話題のオタクだってことを。でも、両方とも止められなかった。止めてしまったら手に入らなかったかもしれない。それが怖かった。受け入れてくれないかもしれない。だけど、理想の女の子よりリアルの女の子に受け入れて欲しかった。だって、生きているから。諦めてしまったらそこで終わり。永遠に進化しない世界なんてない。あるとすればそれは死の世界だ。俺は弱虫だから、死の世界が怖いから。君を愛したい。一人が怖い。……でも、それも今日で終わり。甘い生活も今日で終わり。あんな部屋を見たら普通の君は俺を嫌うだろう。そうに決まっているんだ!)
勇一は相当混乱した頭の中で決めつけていた。
みゆきちゃんとの別れを。
「うっわ~! ……」
双子は一緒に驚いた。
そして、言葉を失った。
(そうだ。こいつらが正しんだ。この反応が……)
勇一はみゆきちゃんを見た。
双子と同じ反応だった。
「うわ~! すごい……でも、きれいに片付いてるね!」
「えっ!」
勇一はびっくりした。
(そんなに驚いてない?)
勇一はみゆきちゃんに怖ず怖ずと聞いた。
「驚かないの?」
みゆきちゃんは勇一の部屋を物色しながら言った。
「確かに驚いた。勇一くんもオタクだったんだね。それにしてはきれいな部屋だよね~」
「『も』って?」
みゆきちゃんはまだ物色しながら話し出した。
「私ね、人に言えないことがたくさんあるんだけどね。その一つがね……私のお父さんとお兄ちゃんオタクなんだよね……勇一くんよりもオタク歴長いと思う……あっ! でも、私はオタクじゃないよ! たぶん……知らない間に鞄にオタクグッズが付いてることもしばしばで。だから、勇一くんが隠れオタクでも構わない。勇一くん好きな気持ちは変わらないから」
いつの間にか双子は消えていた。
「えへへ。良い彼女でしょ?」
「うん」
(俺には勿体無いくらいの)
この後の勇一とみゆきちゃんはどうやって過ごしたかというと――。
甘いムードに酔うこともなく、勉強を頑張った。
あと一週間でテストだったのだ。
みゆきちゃんはまた赤点を取らないようにしなければならなかった。
赤点を取れば夏休みも勉強、勉強だ。春休みでそれは懲り懲りしている。
だから、残りの一週間で詰め込むだけ詰め込むしかなかったのだ。
楽しい夏休みにするために。
そんなこんなで今回のテストは終わった。
勇一達の結果はいつもと変わらず、みゆきちゃんは赤点を取らなかった。
楽しい夏休みが今、やっと始まろうとしていた。




