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第二十六話 ラブホ(2)

 さて、何をするかどこへ行くかと、あちこちの店を眺めながら歩く。どうしても目にとまるのは、店先に並ぶファンシーな小物たちだったり、化粧品だったりするのだ。目的という目的もなく来ただけに、二人はワイワイキャーキャー言いながら、店先を物色して歩いていた。




「あー! 京香、新しいコスメだよ」


「この間コマーシャルでやってたやつだね。この夏の新色」


「でも、夏もそろそろ終わるよね」


「というより、買うお金がない」




 そうなのだ、あの事件のおかげで、結局当てにしていたバイト代が入らないのだ。数日は働いたのだから、その分は貰わなくてはと鼻息が荒い瑛子だが、店が閉店状態では文句の持って行きようも無い。




「あのバイトが続けられたらなぁ。今頃はバイト代が入っていたかも」


「それはないよね。入るのは、来月だったはずだよ」


「そうかぁ。どっちにしても、夏の新色とは縁がなかったということか」




 次に目に付いたのが、今まで見たことの無いプリクラ機だ。




「ねぇ、色白に写るって、しかも目が大きく修正できるってよー。すごくなーい」




 凄くは無いだろう、今どきは普通だ。




「でも、この機械って結構古そうだよ。私たちが知らなかっただけなんじゃない」




 いつでも冷静な京香だ。




「えー、私たちが知らないだけって、ショックなんですけどー」




 周囲では、同年代と(おぼ)しき女子がクスクスと笑っている。瑛子は「何がおかしいのよ」とむくれているが、京香としてはまたしても他人の振りをしたいところだ。




「ねぇ、京香。あの子たちって、なんか気に入らないよね」




 こうなってくると、とにかくこの場から如何に速やかに退散するかが重大任務となる。京香は、瑛子の言葉が聞こえないかのように歩き出した。その京香の後を追ってくる瑛子だが、相変わらず文句が口から突いて出てくるようだ。


 店を出れば、そこは残暑厳しき灼熱地獄だ。露出度が多い瑛子の肌がじりじりと焦げるように焼けていく感じがしてくる。




「暑いー。なによ、この暑さ!」




 そう叫んだ瑛子の足が止まった。




「ねぇ……京香……」




 瑛子の先を歩いていた京香が、肩をつかまれ止まる形となった。




「何よ。急に肩をつかんだら……」




 途中まで言ったものの、瑛子の喜びとも驚きとも、はたまたこの世のものではないものを見てしまったような表情に、それ以上は言葉が出なかった。




「あれって……」




 瑛子の指が空を指す。いくら夏とはいえ、指先が震えるほどの状況とはなんだろうか。真っ昼間に、足の無いもので見たのかと聞きたくなる。




「なによ」




 眉を寄せながら、指さす方に目を向けた。すると、さすがの京香も言葉が出なかった。しばらく二人は同じ方向に目をむけ、暑ささえ忘れて呆然とその場に佇んでいた。最初に呪縛から解き放たれたのは、やはり冷静を旨とする京香だった。


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