第二十六話 ラブホ(1)
あれから数日が過ぎた。警察からは、事情聴取を纏めた書類に判を押してくれと言って来たが、それ以上のことは無かった。
書類を持ってきた刑事は、若くて瑛子好みのイケメンだったため、失恋にくれる乙女はあっという間に恋する乙女へと変身したのだった。
京香と夏美はイケメン刑事から、荒木が自供したことを聞きだし、更に楽しんだ。しかし、小さなアクシデントはあっという間に過ぎ、興味と興奮を掻き立てた日々も、徐々に落ち着きだした。気がつけば、体を溶かすような暑さのおかげで、肌は見事な小麦色へと変色していた。
将来シミになるとぼやく瑛子は、タンクトップにショートパンツ姿で、肌の露出度も最高潮だ。
「焼きたくないとか言いながら、よくそんな格好をするよね」
そう言う京香はツバの広い麦藁帽子に白いワンピース、腕にはレースのアームカバーをして、日焼け防止を試みながらもおしゃれを忘れていない。
「そういう京香だって、足は生じゃない」
ビールじゃないのだから、生ってこともないと思うが。
「夏の足はやっぱり、生でしょ」
やはり、ビールのようだ。
「足だけが真っ黒になるわよ」
「ざぁんねん。ちゃんと日焼け止めクリームを塗ってますから。もちろん顔にもね」
なるほど、さすが京香だ。余念がない。
「それにしてもさぁ、なんでたかだかカラオケに行くだけで、電車で動かなくちゃならないかねー」
瑛子が車窓から流れる景色に目を向けながら、ため息混じりに言う。もちろん、電車の中は節電とはいえ、外よりはずっと涼しいのだから、文句はないのだが。
それにしても、ゲームセンターやカラオケなる店が地元にないために、電車で三駅も移動しなくてはならないのだ。おかげで、学校の帰りに繁華街をうろつくなどという事はありえない。もちろん、電車通学の生徒なら可能なのだが、地元民である三人にとっては学校帰りに繁華街で遊ぶなど皆無なのだ。
「しょうがないよねー。通学距離は短いほうが楽だもん」
「そうだよね~」
お互い面倒な事がキライな性格だから、学校は極力近くを選んだというわけだ。
「でもさぁ、なんで今日は夏美、来なかったの?」
瑛子が不思議そうに聞いてきた。どんな時でも暇をもてあましている夏美なのだ。今まで、誘いを断ってきたことなど、一度もなかっただけに興味が湧く。
「さぁ。用事があるからダメってさ」
京香がケイタイを操りながら、言うと瑛子もケイタイを操りながら「珍しいね」と応えた。
最近の高校生は、ケイタイと話しているのか、友達と話しているのか、理解に苦しむ。
電車は静かにスピードダウンすると、目的の駅へと滑りこんでいった。ドアが開くと視界が広がる。地元の駅と違って、どことなく垢抜けた感じがあるのは気のせいだろうか。心なしか人の動きもきびきびして見える。
「やっぱり、繁華街があるだけに人が多いよね」
瑛子がため息混じりに、行き交う人の姿に目を向けている。その視線は言わずと知れた、イケメン探しなのだが。
「こんなに人がいるのに、イケメンってなかなかいないもんだよねぇ」
更に深くため息が出る。そのため息が何を意味しているのかは、聞かなくても分かる。
二人は改札へと階段を下って行った。改札を出れば、そこにはゲームセンターやカラオケ、パチンコや映画館と遊びには事欠かない素晴らしい世界が口を開けて待っているのだ。
「おおー、我らがJKの素晴らしき、夢の空間が待っておるぞー」
瑛子が両手を広げて、大げさに叫んで見せると、京香がササッと離れていく。さすがに恥ずかしさが先にたつ、こんな時に夏美がいてくれれば、この恥ずかしさも共有できるというものだが、本当に残念でならない。
「やだ、京香。一人じゃ恥ずかしいじゃない」
恥を知っているなら、やらないで欲しいものだ。




