表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/46

第十三話 女子高生は忙しい

 慣れればバラバラのシフトというのは、見事に当たった。


 あれから、二回ほど一緒のシフトに入ったが、その後は三人バラバラの曜日や時間で働くことになったのだ。おかげで、どんなに暑くても京香の家で涼むことが出来なくなった。




「何が辛いって、この暑さでしょ」




 うるさく蝉が鳴き叫ぶのを聞きながら、夏美はアイスキャンディーをくわえ

て真夏の暑さに耐えていた。扇風機を最大にして、畳の上に大の字になっているのだ。




「だらしないねぇ」




 そんな夏美の格好をしみじみ見ているのは、妹の(ふゆ)()だ。冬香は夏美と正反対の、いかにも女の子チックな女の子だ。




「別にいいじゃない。誰が見てるわけじゃないんだから」


「いつでもきちんとしてないと、見てるこっちが暑苦しくなるでしょ」




 そういう冬香のスタイルは、肩紐の短めヒラヒラワンピだ。夏美の、タンクトップにショートパンツ姿に比べると、見事に女の子に見える。




「よくこんなんで、彼氏がいるよね。私みたいに、女らしいなら分かるけど」


「何とでもお言い! あー、アヅイ……」




 体をぐるりと反転させると、腹ばいになる。




「どうしてこうも違うのかしら。同じ姉妹なのにねぇ」




 と、抱いていたクマのぬいぐるみに語りかけている。




「あんたさぁ、中学三年にもなって、ぬいぐるみでもないだろう」


「女の子は可愛いものが好きなのよ。だから、いいの」


「そうですかっ! そのぬいぐるみだけでも、充分に暑苦しいけどね」




 一触即発の状態の時に、ちょうどケイタイが鳴った。どうも妹と話しているとムカついてくるから不思議だ。




「もっしもーし」




 ディスプレーも見ないで電話に出てみると、相手は京香だった。




「暑いねぇ」


「おぉ、京香じゃん。京香の家はエアコン入ってるんでしょ」


「今、バイト終わったところだから、外だよ」


「なるほど、そりゃ乙だね」




 今時の女子高生は、『お疲れさま』を『乙』と表現するのだ。




「瑛子から面白い話聞いてさ、出てこない?」


「暑いからヤダヨ」


「家に居るより、駅ビルにいる方が涼しいよ」




 そりゃぁ、ごもっともな意見だ。しかし、そこまで行く道程が暑いのだ。




「瑛子と一緒だったの?」


「バイト? 違うよ。バイト終わったら、店の前でバッタリ」


「倒れてたの?」


「何が?!」


「バッタリって、あまりの暑さでバッタリと」


「倒れてたら電話してないでしょ!」


「幽霊」


「そりゃー涼しい。って、違うでしょ! この場合のバッタリは、出会ったことに対するバッタリだと判断して欲しいんですけど」


「あぁー、出会っちゃったんだ。店の前で……待ち伏せ」


「ストーカーかよ!」


「近いよね?」


「瑛子にストーキングされるような関係だったか?」


「京香がじゃなくて、副店長だよ」


「あー!」




 あまりの声の大きさに、思わずケイタイを耳から離してしまった。




「何よ」


「それよ、それ! その話がしたいから、出て来いって言ってるのよ」


「何、瑛子が副店長を押し倒した?」


「……」


「マジですか!」


「そこまでじゃないけど、そのうちなるかもね」


「それ、引くわぁ」


「でも、瑛子だから」


「う……ん、否定できないところが、ヤバイよね」


「とにかく、出てきてよ」


「そうだなぁ……」


「こっちは、涼しいよぉ」


「今、瑛子は?」


「今はいないよ。さっき、別れたから。これからデートだって言ってたし」


「えー! 副店長と?」




 思わず、暑さで畳みにへばりついていた体を起こしてしまった。




「ちょいまち! まだ副店長とは関係ないから。本日のデートは今の彼氏だよ」


「今の彼氏も、もう直ぐ過去の彼氏になるんだねぇ」


「あーぁ、決めちゃったよ」


「事実になりそうで怖いね。彼氏可哀想」


「で、出てくる?」


「そうだね。面白そうだし、行くか」


「じゃぁ、待ってるから。奥のたこ焼き屋で待ってるよ」


「ハイよー」




 電話を切ると、タンクトップを脱ぎ捨て、Tシャツに着替える。




「出掛けるの?」




 隣の部屋で、受験勉強と称しながら、机に向かっている冬香が声を掛けてきた。




「うん、駅に行ってくる」


「いいね、高校生は楽で」


「あんただって、来年は高校生でしょ。今のうちにちゃんと勉強しておいたほうがいいわよ」




 などと、姉貴風を吹かせてみる。




「ふーん、まともな事も言えるんだ」




 その言葉にカチンと来ながらも、ここで姉妹喧嘩しても暑苦しいだけなので、スルーだ。




「行ってきまーす」




 玄関で大きな声をだし、自分が出掛けることをアピールするが、冬香が応えるはずも無い。そして、仕事に行っている母の声も聞こえるはずは無いのだ。分かっていながら、出掛ける自分をアピールしたくなる。




(人間ってヤツは不思議な生き物ですな)




 と、自己分析したりする。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ