第十四話 恋の噂話(1)
駅ビルに入ると、熱くなった体が一挙に冷えていくのが分かる。
「いいねぇ、エアコンを発明した人は神様だね」
などと考えながら、奥のたこ焼き屋へのんびりと進む。ビルの中は、涼を求めてやってきた……かどうかは分からないが、多くの人がウロウロと店内を歩いている。さすがに駅ビルだけあって、いろいろな店が並び、女子高生が楽しめるようにできている。どうして、女子高生が楽しめるようにしているのかは不明だが、女子高生好みのお店が多いのだ。
いつだったか、瑛子に聞いてみたところ。
『あったり前ジャン。女子高生が欲しいものを置いておけば、親に買ってもらうとか、彼氏に買ってもらうとか、とにかく女子は買ってくれる人が多いのよ。と言うことは、女子高生をつかんでおけば、お金を落としてくれるってわけよ』
と、本当だかどうだか分からないことを教えてくれたのだ。
「大体、私は買ってくれる人なんていないもんねー」
瑛子なら、瑛子のお色気目当てで買ってくれる彼がいるだろうけれど、夏美ではありえないだろう。そんなことを考えながら歩いていると、自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「夏美ぃ!」
声の方に顔を向けると、たこ焼き屋でソフトクリームを舐めながら、京香が手を振っている。その横には、何故か夏美の彼氏である藤田一馬が同席していた。
(なるほど、ソフトクリームを食べていられる理由が分かったよ)
夏美にしろ、京香にしろバイトを始めたばかりなので、懐具合は今までと変わらないのだ。
「夏美も食べる?」
京香がソフトクリームを小さく掲げて夏美に聞いてきた。
「一馬のおごり?」
「あったり前じゃん! 働いた後のソフトが一番美味しいんだよね」
「人の彼氏の懐を当てにするとは、なかなかの度胸だ」
「そういう訳じゃないよ。夏美を呼び出してやるから、おごれって言っただけだよ」
「同じことだと思うけど」
「まぁ、ばったり会っちゃった訳だし。友達だしさ」
一馬に目を向けると、しょうがないよと言いたげに笑っている。本人がそれで良いなら、これ以上何を言うまでも無いだろうということで、夏美は苺ミルクのフラッペを頼んだ。
「自転車こいで来ると、体の中から冷やさないとね」
「苺ミルクの方が高いもんね。理由が無いとたかれないか」
「あのねぇ……」
「いいよ、夏美。買って来るから」
一馬が歩き出すと、京香がため息を吐いた。
「藤田、優しいよね。私の彼氏には劣るけど」
「劣るって言うな!」
「そりゃぁ、しょうがないよ。私の彼氏は大学生だけど、藤田は同級生だもん。ガキじゃん」
「同級生の一馬がガキなら、同級生の京香もガキじゃん!」
京香が人差し指を立て、左右に振って見せた。しかも、ムカつくことに『チッチッ』と音声付きだ。
「私と彼とは大人の恋をしてるの。君たちとは違うのよ」
これがどういう意味なのかは、深く掘り下げなくても分かりきっている。夏美とて、そういう付き合いに興味が無い訳ではないのだ。ただ、一馬と今以上の関係というのが、想像できないだけのことなのだ。
たこ焼き屋の前のオープンテーブルに座りながら、夏美は電話の話を促した。暑いところ、わざわざ自転車をこいできたのは、この話のためなのだ。
「夏美もゴシップ好きだよねぇ。オバサンみたいだよ」
「そういう京香だって、面白いから私のこと呼んだんでしょ」
「まぁ、そうだね」
ということで、じっくりと事の顛末を聞いてみると。どうやら、瑛子が副店長のメアドをゲットしたらしい。そして、早速メールをしたら感触が良かったということだ。しかも、恋愛は障害があるほど燃え上がるという定義があるが、まさしくその通り! しっかりと、恋敵が存在するのだ。
「誰だと思う?」
京香が愉快そうに目を細める。完全に井戸端会議中のゴシップオバサンだ。
「誰って……こういう場合、大方知ってる人が出てくるよね、ドラマだと」
「そりゃぁ、ここで全く知らない人が出てきたら、見てる方は『この人誰?』ってなるからなぁ」
一馬が腕を組んで、ボソッと呟いた。いつの間に戻ってきたのか、夏美の前には苺ミルクのフラッペが置かれていた。
「まるで探偵だね」
京香が頬杖を付いて一馬を見た。
「オレ、推理小説好きだから」
「これって、推理小説っていうより、昼ドラじゃない?」
「奥様向けドラマ?」
「うちの母親、こういうの好きだよ。三角関係とか、ドロドロのヤツ」
京香がソフトクリームの包み紙を指に差して回して見せる。
「それって、もっと食べたいってジェスチャー?」
夏美が京香の指を示すと、京香が一馬をチラッと見てニッと笑って見せた。




