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『俺が本気で好きになった女は、俺を好きにならなかった』  作者: こうた
第一章 出会い――金から始まった関係――

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第29話 最後のチャンス


三日間。


ながとは、さくらに連絡しなかった。


電話もしなかった。


メッセージも送らなかった。


駅にも行かなかった。


会社の近くにも行かなかった。


「……俺、我慢できてるやん」


一人で呟く。


その三日間だけを見れば、確かに何も起こしていない。


仕事にも行った。


パチンコにも行かなかった。


帰宅して、飯を食って、風呂に入る。


そして寝る。


以前の自分からすれば、信じられないほど静かな三日間だった。


けれど――


頭の中には、ずっとさくらがいた。


笑った顔。


「ながとさん」と呼んだ声。


一緒に飯を食べた時間。


貸してくれた一万円。


そして、自分を見て怯えた顔。


「……俺、そんなに怖かったんかな」


初めて、その言葉を口にした。


だが、すぐに首を振った。


「いや……でも俺、本気やったし」


自分に言い聞かせるように呟く。


「本気やったから、頑張ったんや」


六キロ痩せた。


仕事も真面目にするようになった。


パチンコも減らした。


服も変えた。


髪型も変えた。


金も返した。


「これだけやったんやから……」


そこで、スマホを見る。


当然、通知はない。


さくらからの連絡はない。


それでも、ながとは思った。


きっと、まだ考えている。


そう思いたかった。


いや。


そう思わなければ、自分が保てなかった。


その日の夜。


まさひこから電話があった。


「ながと」


「なんや」


「三日間、連絡してないらしいな」


「……なんで知ってんねん」


「けんじから聞いた」


「してへんよ」


「それなら、それでええ」


「……」


「このまま終わらせよう」


ながとは黙った。


「俺は……」


「なんや」


「一回だけ、ちゃんと話したい」


「まだ言うんか」


「最後に」


「何が最後や」


「俺が変わったことを、ちゃんと伝えたい」


まさひこはしばらく黙った。


「……それを聞いて、さくらちゃんがどうすると思う?」


「分からん」


「じゃあ、なんで話したい?」


「……」


「自分が楽になりたいからちゃうか?」


その言葉が刺さった。


「違う」


「じゃあ何や」


「さくらに……俺のこと分かってほしい」


「それや」


「何がや」


「まだ自分のことしか考えてへん」


ながとは言葉を失った。


「さくらちゃんは、お前のことを分かってないんやない」


「……」


「分かったうえで、好きじゃないって言ってるんや」


「……」


「そこを認めろ」


ながとは電話を切った。


腹が立った。


悲しかった。


悔しかった。


そして――怖かった。


もし、本当に終わってしまったら。


自分には何が残る?


さくらを失ったら、自分は何者になる?


その答えが分からなかった。


翌日。


仕事が終わった。


ながとは駅へ向かった。


いつもの道。


いつもの時間。


そして――


向こう側に、さくらがいた。


一人だった。


ながとの足が止まった。


胸が激しく鳴った。


「……さくら」


声をかけようとした。


だが、三日前のまさひこの言葉が頭をよぎる。


「本当にさくらちゃんが好きなら、最後に一回だけ、さくらちゃんの気持ちを優先しろ」


ながとは立ち止まった。


さくらも、ながとに気づいた。


一瞬で顔が強張った。


そして――


スマホを取り出した。


ながとは、それを見た。


さくらは誰かに電話をかけている。


「……」


そして、駅員のいる方向へ歩き出した。


ながとは動けなかった。


追いかければ、話せる。


今なら。


二人きりで。


ちゃんと話せるかもしれない。


でも――


さくらは逃げている。


その事実だけは、もう分かった。


「……俺」


足が動かない。


「……俺のこと、そんなに嫌なんか」


さくらは振り返らなかった。


そのまま人の多い場所へ消えていった。


ながとは、その場に立ち尽くした。


そして初めて思った。


「話したい」という自分の気持ちより、

「話したくない」という彼女の気持ちの方が強い。


当たり前のことだった。


でも、今まで見えなかった。


帰宅すると、スマホに一通のメッセージが届いていた。


送り主は、まさひこ。


『今日、駅にいたやろ』


ながとは返信した。


『いた』


すぐに返事が来た。


『声かけたか?』


ながとは画面を見つめた。


しばらくしてから、


『かけてない』


と送った。


既読がついた。


そして――


『それでええ』


短い言葉だった。


ながとはスマホを置いた。


その夜。


初めて、さくらに連絡しないまま眠った。


けれど。


翌朝。


目を覚ましたながとの頭には、また同じ言葉が浮かんでいた。


最後に一度だけ。


まだ、終われなかった。

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