第十二話 海だ!
遅くなってしまってすみません。引き続きよろしくお願いします。
澄み渡る高い空。ザーザーと繰り返す波の音。
ぬるい風に乗って潮の匂いが鼻を刺激した。
「海だー!」
私たちをおいて走っていった綾音が砂浜の中を走って叫ぶ。今にも海に飛び込みそうな様子だ。
「海だー!」
その横で同じように叫んでいる奴がいた。同じクラスの松村だ。
別にたまたま同じ日に来た、とかではない。そうだったなら良いなと今頭を抱えかけたが、事情がある。初めは、女子四人組で来るつもりだったのだけど、ビーチバレーとかしたいと話しているうちに人数が多い方が楽しくないかということになった。
男子も大体到着したらしい。合流してパラソルを借り、荷物をその周りに置く。水着を着てきた人は早速海に向かって、持ってきた人たちは更衣室に向かった。
綾音は下に着てきたらしいがついてきてもらって、四人で一緒に更衣室に行った。
「早く〜」
さっさと着替えた綾音が急かしてくる。
「ちょっと待ってよ」
「咲、それ選んだんだ〜。いいね、かわいい」
「友奈も可愛い」
「でしょー」
一通りお互いの水着を褒めあってから外に出る。
サンダルを脱いで、荷物の横に置く。今日は朝から暑かったけど、砂はぬるいってぐらいだ。早く海に入りたいけど、一旦、パラソルの下に入って日焼け止めを塗り直す。日焼けは女子の天敵なので。
「友奈〜。サンオイル塗って〜」
「はいはい」
シートの上に寝転がった綾音に、友奈がサンオイルを塗っていく。
「柚はいいの?」
「え、日焼け止めならもう塗ったけど」
「いや、男子にチヤホヤされてきたいんじゃないかなって」
「それは……後でいいよ」
チヤホヤはされたいのか。
「まずは、四人で思い出を作る方が大事かな」
「一番最近仲良くなった癖に」
「なんでそういうこと言うかな?! 時間は関係ないでしょ」
「あはは、ごめんごめんって」
柚の後ろにこっそりと忍び寄った綾音と友奈が柚の背中にオイルで濡れた手をつける。
「ひゃっ。何するの急に!」
「えへへ、余ったから」
「配分下手くそ? もー。早く海行こ」
「いくよ? せーのっ!」
四人で手を繋いでせーので海にダイブする。
私たちは軽く波を浴びるだけのつもりだったのに、綾音が身体ごと飛び込もうとしたせいで総倒れした。
「バカなの? 浅瀬で飛び込んだら危ないでしょ」
「だって散々待たされたんだもん」
そう言って笑う綾音。これは反省してない。
「思ったより冷たいね」
「まだ七月だからね」
「そっか」
「えいっ」
綾音が海水をかけてきた。それが、顔にかかる。
垂れた前髪をかきあげて、綾音を睨む。
「やってくれたね」
自然と口角が上がっていた。
「あ、やべ、咲の闘争心に火つけちゃった」
やられたらやり返す。徹底的に。
「まぁ……。はぁはぁ、イーブンってとこかな。すごいよ、運動部の私を相手にここまでするなんて」
「今回はこれぐらいで許してあげるよ」
お互い息を切らしながら強がる。泳いで逃げたり奇襲したりしていたので、水をかける、かけられるの段階はとっくに過ぎていた。髪もなにもかもびしょびしょである。
浜辺を見ると柚と友奈が二人で談笑しながら砂遊びをしていた。隣では、一条と瀬尾が松村を埋めている。
私たちは顔を見合わして何やってたんだろうと笑って、柚と友奈のところに向かった。
瀬尾たちの前を通ったところで呼び止められた。
「あ、石橋と夏月。ボール持ってきたけど。ビーチバレーやる?」
「ちょっと休んだら」
「おっけー」
「夏月、これ見て砂風呂。やばくね」
松村が砂から顔だけ出した状態で楽しそうに言った。
「はいはい」
あとで、水で固めてやろ。
「柚、友奈」
二人のところに行って呼びかける。
「やっと帰ってきた。いつまでやるんだろーって話してたよ」
柚は少し呆れた様子でそういった。
「ごめんごめん。何してるの」
「城作ってる」
友奈が慎重に屋根部分の形を整えながら返す。友奈は手先が器用だからこういうのも上手い。
一度、羽織るものを取ってきてから私も城造りに加わった。
四人でくだらないことを話しながら、城を完成させる。八割ぐらいは友奈が作ったけど。
城の前で四人で写真を撮る。
「てか、二人、髪が。ウケる」
「めっちゃ泳いだからしょうがないじゃん。あー、先に写真もっと撮っておけばよかった」
「インスタあげていいー?」
「いいよー」
丁度、男子たちがやってきた。
「おぉー、城、すご」
「ほとんど友奈が作ったんだよ」
「マジか、えぐー」
「みんなで写真撮ろうぜ」
「いいね」
「あれ、松村は?」
「今は地球と一体化してるらしい。後であっちでも撮ろうぜ」
一通り写真を撮って、また解散する。私たちはそろそろお昼を食べようということで海の家まで来ていた。
昼になるとだいぶ人が増えてきた。砂浜はカップルや家族連れ、私たちと同じ学生なんかで溢れている。
「やっぱり焼きそばでしょ」
焼きそばは人気みたいで、列ができていた。最後尾に並ぶと、前にちょうど同じクラスの男子がいる。
「やっぱ、夏月さん。スタイルいいよなぁ」
「いや、俺は石橋の健康的な感じのが好きかも」
「いやいや、古岩さんでしょ、夏月さんはなんか怖いしさぁ。愛想がねぇよ。あ」
「え?」
男子たちが私の存在に気づく。私はそいつらに冷ややかな視線を送った。
「サイテー」
「い、いやぁ」
気まずそうにしつつ、その視線がちらちらと胸とか肌の露出してるところに行ってるのバレてるっつーの。
「まぁ、本人のいないとこでしなよ。ほら、こっち見んな」
「う、うす」
急に静かになった彼らは、いそいそと焼きそばを受け取ると、どこかへ行った。
「なんか、咲丸くなったね」
焼きそばを口まで運んだところで綾音がそう呟いた。
「え、何、急に、むしろ減量してるんだけど」
「いや、そっちじゃなくて。ほら、さっき。前ならもっと死ね、とかキレててもおかしくなかった気がしたから」
「あぁ~、確かに」
「えぇ、そんなことないでしょ」
「そうかなぁー?」
いくら短気な私でもあれぐらいなら怒らなかった、はず。
「あれだね。天使くんのおかげだね」
「それは……」
否定できない……。
「まぁ、ほら、私だって男子の顔がどうこうとか言うし」
「そっか、確かに」
「天音のお人好しがうつったのはあるかも」
「咲はまだお人好しというほどではないでしょ」
「柚ー?」
すばりと切り捨てた柚の方を見ると、柚はてへぺろとかわいこぶった。それが効くのは男子相手にだけでしょ。
騒がしくお昼を食べながら、さっきの綾音の言葉のせいで天音のことがずっと頭にあった。今頃、何をしているんだろう。友達と遊ぶのはこんなに楽しい。一秒一秒、思い出が増えていく。大好きな人たちの色んな表情が見られる。自分でも、自分が昔は高圧的で排他的だったというのは分かっている。今もまだ、そうだろう。でも、天音のおかげで、前までの私なら苦手だっただろう柚と友達になって、今楽しい。
天音も一緒に遊べればいいのに。せめて私以外でも友達ともっと遊べばいいのに。あんなに好かれているのに、好かれているから誰とも特別になれない。それって、どうなんだろう。
天使って不自由だ。あれじゃあ、羽があったって飛べやしない。
「咲、どうしたの?」
ぼーっとしていた私に柚が声をかけてきた。
「ううん、なんでもない」
柚も不憫だ。相手が天音じゃ報われない。
私が勝手に憐れみの目を向けるのにも気付かないで、柚は、どこかに良い男いないかな〜、なんて呟いていた。
もうさっさと彼氏作りなよ、この女は。
「おーい、杉野がスイカ持ってきてくれたって。スイカ割りしようぜ」
瀬尾がやってきてそう告げた。
「やるー!」
綾音が勢いよく返事をする。
まだまだ楽しい時間は続くんだ。とにかく遊ぼう。
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