(最終話)李家のクリスマスツリー
(承前)
###2016年、冬。
昊天がレーザー距離計を取り出したのは、十一月の初めだった。
居間では、妻が娘をあやしている。
ときおり赤ん坊のぐずる声が聞こえる。
昊天は屋敷のエントランスホールに立つ。
天井まで、八・四メートル。
幅は、六・二メートル。
メモ帳に数字を書き込む。
一般的なクリスマスツリーの規格を確認する。
既製品では、収まりが悪い。
(特注だな)
外商の劉への連絡は、翌日には済んだ。
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搬入は、十二月の第一週。
「……」
妻は玄関に立ち、しばらく何も言わなかった。
小型クレーンを搭載したトラックが、屋敷の前に停まっている。
作業員が六人。
資材搬入用の養生シートが、エントランスの床を覆っている。
劉が近づいてきて、朗らかに言った。
「天井高に合わせた特注品でございます。ピッタリ収まるはずですよ」
「……大きすぎません?」
「いいえ、適正サイズです」
妻は隣の昊天を見た。
昊天は養生シートの端を踏まないよう、一歩横に移動した。
「問題ない」
「……そうですか」
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昊明が来たのは、搬入が終わって一時間後だった。
エントランスに入った瞬間、足を止める。
天井まで届くツリー。
作業員が脚立の上から最後の枝を整えている。
「……兄さん」
「なんだ」
「これ測ったの?」
「ああ」
昊明はしばらく上を見上げていた。
「ピッタリだね」
「当たり前だ」
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小猫は娘を抱いたまま、飾り付けられたツリーを見上げて目を丸くした。
「わあ……」
それから娘の耳元で、そっと言った。
「お父様が測ったんですよ」
ツリーにあたたかな光がともされる。
娘はまだ何もわからない。
ただ、光るものに手を伸ばす。
妻が娘を抱き取り、髪を撫で微笑む。
娘が笑い声を上げた。
昊天は、その隣に立ち、
(適正サイズだ)
と、思った。
かつて、この屋敷のエントランスは
冷たく、重苦しい場所だった。
天井の高さだけが、やけに目についた。
だが今は、違う。
ツリーの灯りが、静かに広がる。
その光が、石の床にも、壁にも、
やわらかく映っている。
昊天は、もう一度だけ見上げた。
天井まで届く枝と、
あたたかな光。
(……問題ない)
李家の冬は、
こうして静かに更けていく。
(完)
監獄のように冷たく重苦しかった屋敷にあたたかな光が満ちて、家族が集い、赤ん坊の笑う声がする。
覇道総裁、李昊天の物語はこれにておしまい。お付き合い、ありがとうございました。




