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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
## エピローグ さまざまな顔

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番外 若き龍

(承前)


###2001年、上海/龍騰A株上場記念パーティー


ホテルの大広間は、祝賀の声で満ちていた。


壇上では、父亡き後に龍騰グループを率いてきた叔父が、満面の笑みで来賓の拍手を受けている。

フラッシュが絶え間なく焚かれる。


(――上海証券取引所でのA株上場は、父の悲願だった)


叔父は、半歩後ろに立つ昊天の方を振り向いた。


「皆さんもご存じでしょうが――」


軽く会場を見回す。


「我が社には、頼もしい次の世代がおります」


少し間を置いて、昊天の肩を押し出すように手を置く。


「李昊天。

龍騰ホールディングスの次代を担う、若き龍です」


拍手が起こった。


昊天は動かなかった。

頷きもしない。否定もしない。

ただ静かな表情でそこに立っている。


叔父の手だけが、肩に置かれたままだった。

フラッシュがまた光った。


会場の片隅。


譜代の役員たちが、グラスを片手に小さく頷き合っていた。

役員たちの視線は、叔父ではなく、昊天の方へ向いていた。


「若様が戻ってきた」

「これで龍騰も安泰だ」

「海外で経験も積んでおられる。時代も変わるでしょう」


声は低い。その表情にはどこか、安堵だけではない思惑が混じっている。


---


会場の隅で、水蘭は壇上を見上げていた。

同い年のはずなのに、昊天の立ち姿は年齢よりもずっと静かに見える。


水蘭は小さく呟いた。


「……あんな顔、する人だったっけ」


隣に立っていた昊明が、短く鼻で笑った。


「しなきゃいけないんだろ」


視線は壇上から外さない。


「あそこに立つなら」


昊天は、叔父の手が肩に置かれたまま動かなかった。

祝福の拍手の中でも、表情は変わらない。


昊明は、その姿をじっと見ていた。


そして声を落とす。


「兄さんは、あの『家』を丸ごと背負う気だよ」


水蘭の方は見ない。視線は昊天に当てたまま。


「叔父さんたちの魂胆も、役員たちの期待も――全部、飲み込んで」


フラッシュがまた光った。


********************************************


### 透明な檻/2002–2005年


古参役員の額に光る汗とは対照的に、

昊天の横顔には一切の揺れがなかった。

指先だけが、端末を静かにスクロールしている。


「——この会社は外す」


短く、乾いた声。

役員の顔が凍りついた。


「わ、若、いえ、昊天様……しかし、ここは先代の頃から……」

「基準値を満たしていない」

「そ、それが…その……先代の“情”というものが……!」


古参役員は必死に食い下がる。


「利益率も、支出の透明性も、リスク管理も。

契約継続の理由が一つもない」


昊天はそこで初めて顔を上げた。

まっすぐだが、冷たい視線。


「龍騰は情で動く会社ではない。

動いていい規模でもない」


昊天は椅子にもたれることなく、

真っ直ぐ相手を見据えたまま静かに続ける。


役員の喉がひゅっと鳴る。


「し、しかし……それでは……これまでの契約先は……」

「困るだろうな」


昊天の声はやさしいほど静かだった。


「困るからこそ、やる必要がある」


---


夜、龍騰大厦の最上階。

オフィスの灯りはほとんど消えている。

ただ一室だけ、淡い光が残っていた。

昊天は机に向かい、静かに数字を見続けていた。


無駄なもの、

不透明なもの、

私物化に繋がるもの。

それらを徹底的に排除するための基準を――


誰かに褒められるわけでもない。

誰かを恨むこともない。

ただ整えているだけ。


その瞬間、ドアがノックされた。


「兄さん?」


昊明だった。

昊天は顔だけを少し動かす。


「……どうした」

「灯り、見えたから」


昊天は短く返す。

「先に帰れ」


昊明は部屋に入り、机の上の案件をざっと見て眉をしかめた。


「叔父派の息がかかった企業ばかりじゃん」

「基準に達していない」

「達する気もないだろ、あのへんは」


昊天は言葉を返さない。

昊明はしばらく黙ってその横顔を見ていた。

そしてぽつりと言う。


「——兄さん、“楽になる”ためにこれやってるんじゃないよな」


昊天は答えない。

昊明は笑いもしない。


「自分で檻を作って、自分を入れるんだろ」


昊天はそれに反応もせず、ただ端末を見続けた。

昊明はそれ以上何も言わず、ドアに手をかけた。


「……兄さん」


背中越しに小さく言う。


「誰も、そこまで求めてないよ」


昊天は、顔を上げなかった。


「求められなくても、必要だ」


その言葉は、昊明にはあまりにも重かった。


「……そっか」


昊明は静かに部屋を出た。

閉じたドアの向こう側で、

昊天はまた端末に視線を戻す。


(誰も、そこまで求めてない、か)


その仕事は、誰かから見れば、

“ひとつの時代を終わらせる準備”

であり、昊天には

“すべてを透明にする檻の構築”

だった。


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