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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
## エピローグ さまざまな顔

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番外 知らない顔

### 水蘭視点/2000年


水蘭が昊明のことを「昊天の弟分」以外の目で見たのは、彼が帰国してから少し経った頃だった。

久しぶりに会ったら、知らない顔になっていた。


(……いつの間に)


「なに、水蘭姐。そんな顔して」


昊明は相変わらずの調子で笑う。

変わってないようで、変わっていた。

水蘭はしばらく返事ができなかった。


(なんで、私)


「……別に」

「嘘つき」


昔は、こういうとき、年上に言い負かされるのが嫌で、ムキになって。

それが昊明だった。


いまは、ただ、待っている。

目を逸らしたのは、先に水蘭のほうだった。

視線を窓に向ける。

外は、普通の午後だった。


(背が伸びた)


昔は、ただの弟分だった。

昊天の後ろをついて回る、少し生意気で、でもまっすぐな少年。

いま目の前にいるのは、もう"少年"ではない誰か。

この数年間で、声も、まなざしも変わった。


「久しぶりだから」

「うん」


昊明は特に追わなかった。

それがまた、昔と違う。


遠くで誰かの笑い声が聞こえる。

日常は何も変わらない。


(なんで、私)


答えは出かけていたけれど、

水蘭はまだ、それに名前をつけなかった。


---


### 昊明視点


水蘭に連絡したのは、帰国して三日目だった。

理由は考えていなかった。

考えていたら、しなかったかもしれない。


「久しぶり。上海にいる?」


返事は十分後。


「いるよ」


それだけ。でも返ってきた。

昊明は少し笑った。

誰にも見せない顔で。


(来た)


約束を取り付けるのは簡単だった。

「ご飯でも」「いいよ」、それだけ。


店を選んで、先に着いて、席を取って。

そのあいだずっと、緊張していないふりをした。


水蘭が来た。


(……ああ)


変わってない。

それなのに、昔より近く見えた。

それは自分が変わったからだと、昊明は知っていた。


---


三度目か、四度目かの食事のとき。

水蘭は苦笑した。

「ほんと、昔と変わらないね」


昊明は肩をすくめる。


「……そういうの、ずるいよね」

「なにが?」

「その顔で言うの」

「意味分かんない」


水蘭が呆れると、昊明はふっと息を吐いた。


「まあいいけど」

それから、少し視線を外す。


「昔からそうだし」

「何が?」

「水蘭姐ってさ」


昊明は笑う。


「人をその気にさせるのうまいよね」

「は?」

「気づいてないの?」

「気づくも何も」


水蘭は眉を寄せる。


「昔からあんたはそういう軽口ばっかり」

「軽口ね」


昊明は小さく繰り返した。

それから、少しだけ首をかしげる。


「じゃあ聞くけど」

「なに」

「俺のこと、まだ弟分だと思ってる?」


水蘭はあっさり頷いた。

「思ってるけど」


間髪入れない答えだった。

昊明は一瞬だけ黙る。それから、笑った。

でもその笑い方が、いつもと少し違った。


「そっか」

「なにその顔」

「いや」


昊明は軽く肩をすくめる。


「さすがにそろそろきついなって思って」

「何が」


昊明は水蘭を見る。

さっきまでより、少し真面目な目だった。


「弟分」


水蘭は瞬きをする。


「……なに急に」

「急じゃないよ」


昊明は一歩近づく。

距離が、思ったより近くなる。


「俺、わりと前から言ってるつもりなんだけど」

「言ってない」

「言ってるよ」


昊明は笑う。

でも目は笑っていない。


「分かりにくいだけ」


水蘭は言葉を探す。

でもうまく出てこない。


「……昊明」

名前を呼ぶと、昊明は少しだけ嬉しそうに笑った。


「茶化さないで」

「茶化してない」


昊明は少しだけ声を落とす。


「俺、わりと本気」


水蘭は視線を外さない。

でも呼吸が少しだけ浅くなる。

ゆっくり聞く。


「……じゃあ何?」


水蘭が聞く。

昊明は少しだけ笑った。


「本気で言ってる?」

「なにが」

「俺のこと」


水蘭がほんの少しだけ目を見開く。

昊明は肩をすくめる。


「十五のガキの頃から」


少しだけ声が低くなる。


「ずっと同じこと思ってる男に」


視線を合わせる。


「まだ弟やらせる気?」


水蘭はしばらく返事ができなかった。


「……なんで、私?」


昊明は少し笑って


「急に重くしてごめん。いまのなし」

「え?」

「行こうか」


昊明は伝票をつかんで立ち上がる。


「待って。……勝手に決めないで」

「え?」


昊明はゆっくり座り直した。

伝票は手に持ったまま。

水蘭は息を吸った。


「答え、すぐには出せない。でも……なしにはしないで」

「わかった」


昊明は小さく笑い、再び立ち上がった。


「これ払っておくね」


その背中を見送りながら、水蘭はつぶやく。

(……なんで、私……)


答えは、もう目の前だった。


---


半年が経った。何度か会った。

軽い食事。

昔話。

いつもと変わらない会話。

変わらないことが、

水蘭を安心させていた。


その日も、いつもの店で。


「最近、忙しい?」

「まあね」

「昊天はまだ香港?」

「うん、相変わらず戻ってこない」


軽く笑う。

昊明は、いつもの調子。


「あのさ」


水蘭が言う。


「昊明って、私より年下じゃない」


昊明の手が、グラスの縁で止まる。


「……うん」

「昊天が戻ってくれば、大事な立場になるし」

「うん」

「だから、もっと、ちゃんとした人のほうが——」


「水蘭」


呼び方が、変わった。

「姐」が消えた。昊明は、ゆっくりグラスを置く。


「いつまで逃げる気?」


声が、低い。

いつもの軽さが、ない。水蘭は、言葉を探す。

でも出てこない。


昊明は、少しだけ身を乗り出す。

テーブル越しの距離が、近くなる。


「俺の気持ち、変わると思った?」

「……そうじゃなくて」

「じゃあ、何?」


一歩も引かない。


「年下だから? それとも、年上のほうが都合いい?」

「そんなこと——」

「じゃあ、立場? 俺が兄さんのいとこだから、もっと"ちゃんとした人"が必要?」


水蘭は、息を呑む。

昊明は、肩をすくめる。

でも目は、笑っていない。


「俺、半年待ったよ」


一拍。


「でもさ」


少しだけ笑う。


「水蘭が逃げるたびに、俺の気持ち、減ると思う?」


視線を外さない。


「増えるんだけど」


水蘭は、何も言えなかった。


「……昊明」

「うん」


返事だけ。


「困る」

「何が?」

「こんな——」

「こんな、何?」


昊明は、少しだけ首をかしげる。


「俺、ちゃんと待ったよ。

でも、いつまでも待てるわけじゃない」


水蘭は、視線を落とす。

昊明は、小さく息を吐いた。


「水蘭」


名前を呼ぶ。


「もう一回だけ聞く」


一拍。


「俺じゃ、ダメ?」


水蘭は、ゆっくり顔を上げた。昊明の目が、そこにあった。

いつもの軽さは、ない。

ただ、真っ直ぐだった。


「……ダメじゃない」


小さな声。

昊明は、少しだけ笑った。


「じゃあ、もう逃げないで」


答えは、いま、ここにある。

陰の者である昊天さんがハーバードの文学少女のアパートでキスしてる間に、チャラ仮面はこんなに一途だったのか?!っていう回です。


「十五のガキの頃から」

「ずっと同じこと思ってる男に」

「まだ弟やらせる気?」


いいですよね。

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