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第3章(20)読者
シンガポール。
夜のホテルのラウンジ。
アーロンが、タブレットを置いて言う。
「最近さ、インフラ関係の記事で
同じ名前、よく見るんだけど」
昊天は、グラスを傾けたまま答えない。
「港の話とか。
運用の話とか」
一拍。
「——彼女、名を挙げたね」
昊天は、視線を上げなかった。
「……関係ない」
アーロンは、肩をすくめる。
「囲わなかったんだ」
「必要ない」
即答だった。
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総裁室に届いた雑誌。
巻頭でも、特集でもない。
地味な位置。
だが、
確実に、そこにある文章。
名前を見る。
それ以上は、何もしない。
連絡もしない。
評価もしない。
彼は、ただページを閉じる。
読者でいよう。
それが、
彼女の書くべきものを守る、唯一の立場だと知っているから。




