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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第3章 知夏編

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第3章(18)書けるところで


最初の連絡は、平日の昼休みだった。


知らない番号。

出ると、落ち着いた男性の声が名乗った。


——国内大手紙のデジタル編集部。


「Webで拝見しました。

 港湾の記事を書かれた方ですよね」


知夏は、一瞬だけ言葉に詰まった。


「はい……」


「いま、インフラと都市運用を横断的に書ける人を探しています。

 一度、お話できませんか」


切ったあと、

しばらくスマホを握ったまま動けなかった。


(……大手紙?)


名前を出せば、誰でも知っている。

紙も、Webも、影響力がある。


だが、頭に浮かんだのは

「すごい」より先に——


(私、そこで何を書くんだろう)


---


数日後。


昼食から戻ると、

編集長に呼ばれた。


「ちょっと話がある」


狭い資料室。

ドアが閉まる。


「……あちこちから声、かかってるだろ」


否定はしなかった。


「大手紙からも?」


うなずく。


編集長は、少しだけ笑った。


「まあ、そうなるよな」


壁に肘をつき、

知夏を見る。


「うちは、正直に言うと

 紙もWebも、余裕はない」


言い訳でも、慰留でもない口調だった。


「でもな」


一拍。


「君の書いてるものは、

 “うちのフォーマット”からは、もうはみ出してる」


胸が、きゅっとなる。


「それは、悪い意味じゃない」


編集長は続けた。


「CFに分解できるか、とか

 紙面に収まるか、とか

 そういう基準で測ると、たぶん君は苦しくなる」


知夏は、黙って聞いた。


「だから」


編集長は、はっきりと言った。


「書けるところで書け」


引き留めない。

背中を押すだけでもない。


判断を、本人に委ねる言葉だった。


「ここに残ってもいい。

 外に出てもいい」


「ただし」


視線が、真っ直ぐ刺さる。


「書くのをやめる選択だけは、するな」


---


その夜。


知夏は、部屋の床に座り、

ノートを並べた。


これまでの取材メモ。

港湾。

運用。

都市OS——消して、書き直した言葉。


(私は……)


肩書きが欲しいわけじゃない。

有名になりたいわけでもない。


現場で動いている現実を、そのまま書きたいだけだ。


それができる場所は、

どこだ。


大手紙の名前。

今の編集部の空気。

Webという広さ。


迷いはあった。


だが、

迷いの中心は、ひとつだった。


(……書けなくなるのは、嫌だ)


知夏はスマホを取り、

大手紙の編集者に返信した。


> 「一度、お話を聞かせてください」


それだけ打って、送る。


窓の外では、

夜の街が、何事もなかったように動いている。


港も、道路も、

止まらない。


(……私も、止まらない)


知夏は、ノートを閉じた。



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