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第3章(17)回り始める輪
コピーを取りに行った知夏は、
パントリーの隅で、先輩二人の会話を耳にした。
「Webの記事、読んだ?」
「港のやつ? あれ、意外と回ってるらしいな」
「ていうか、引用してる人の顔ぶれが……」
声が、ひそっと落ちる。
「……うちの記事じゃ、珍しい層だよな」
知夏は、何も言わずに紙を揃えた。
胸の奥で、
小さく、確かな音がした。
午後の編集会議。
紙面用の企画が一通り終わったあと、
編集長がふと思い出したように言う。
「——そういえば」
知夏を見る。
「この前の港湾の記事、
次、続けられる?」
一瞬、
部屋の空気が止まる。
「Webで、ですか?」
「そう。
ああいう“現場×運用”の切り口、
もう一段いけるだろ」
反論は出なかった。
CFだの、資産だの、
いつもなら飛んでくる言葉が、今日はない。
(……通った)
正式な称賛でも、昇進でもない。
だが——
否定されなかった。
それは、この編集部では、
明確な変化だった。




