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名と役割のはざまで~覇道総裁中華財閥ロマンス~  作者: Furi0804
第3章 知夏編

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第3章(11)現場への渇望


#### 【編集会議】


午後の編集会議は、いつもより少しだけ空気が軽かった。


「——ああ、前回のセミナー記事ね」


デスクに置かれた先週号を、デスク長が指で叩く。

知夏は背筋を伸ばした。


「悪くないよ」

「というか、分かりやすい」


隣の先輩がページをめくりながら言う。


「やっぱりさ、こういう“新しい話題”は若い子が書くほうがいいのかね」

「理想論に流れないのがいい」


胸の奥で、小さく息をついた。

——やった。


だが、そこで終わらなかった。


「ただね」


少し年上の記者が、椅子にもたれながら続ける。


「技術系の記事は、ここからが本番だよ」

「セミナーは“入り口”。現場を見ないと、次は書けない」


現場。


その言葉が、妙に重く響いた。


「都市インフラは、紙の上じゃ分からない」

「机上で分かった気になると、すぐボロが出る」


知夏は、何も言い返せなかった。


(……現場)


会議が終わり、席に戻っても、頭の中にはその言葉が残り続けた。


都市OS。

数字の裏側で、街を止めずに回す仕組み。


——それが、実際に動いている場所。


(見たい)


気づけば、それは願いではなく、

渇望に変わっていた。


---


翌週、知夏はまた取材申請を出した。


龍騰グループ広報部宛。

対象:ネクサス事業関連インフラ。


返事は、思ったより早かった。


だが、内容は冷静で、丁寧で、そして固かった。


> 「ネクサス事業につきましては、

> 現在、情報管理を厳格に行っております。

> 恐れ入りますが、個別の現場取材はお受けできません」


一行一行が、きれいに磨かれた壁のようだった。


(……やっぱり)


拒絶というより、

最初から通す気のない答え。


セミナーで見た、あの静かな男——李昊天。

彼が築いているのは、こういう壁なのだと、知夏は初めて実感した。


正規のルートでは、近づけない。


(それでも……)


諦める理由には、ならなかった。


---



数日後。

編集部のメールボックスに、一通の英文メールが届いた。


差出人名を見て、知夏は一瞬、呼吸を忘れた。


——Aaron Chan.


> I read your report.

> The perspective was good.

(記事読みましたよ。視点がとてもよかった)


短い文。

だが、あのセミナーで壇上に立っていた男の名前だった。


さらに続く。


> There will be an investor briefing at one of the ports

> under Longteng Group.

> If you’re interested, would you like to join?

(今度、龍騰グループ傘下の港湾で、投資家向け説明会があります。

関心があれば、参加しませんか)


投資家向け現場説明会。


取材、ではない。

広報ルートでもない。


(……また、一般参加)


思わず苦笑する。


それでも——

現場に行ける。


都市OSが、実際に回っている場所に、立てる。


知夏は、即座に返信を書いた。


> Yes. I’m very interested.


送信ボタンを押した瞬間、

胸の奥で、確かに何かが動き出した。


正規の扉は閉ざされたまま。

だが、別の入口が、静かに開いたのだ。


——現場へ。


知夏は、その二文字を心の中で反芻しながら、

ノートを鞄にしまった。

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