ゴヂュウ(最終話)、もしくは、大空へ消え去る意識とまた、何処かでアイマショウ…
全身の焼ける様な痛みがまだ続いている、ボロボロと剥がれ落ちる皮膚が砂と化していく、それでも日陰の中で私は一度冷静になろうとする、ここは何処なのか、今、私のいる日陰を為している建物と同じ造りの建物が隣にある、奥行きの長い何かの工場のような二つの建物、そうだ思い出した、この各々の建物は「東棟工場と西棟工場」だ、つまり私は現世に戻って来たのだ、どういう仕組みなのかは分からないが、私は“ラヴ・フラッシュ・フィーバー”の光の果てにではなく、勇者の「七色の顔」のフラッシュバックによる卒倒の果てに現世へと戻って来てしまったらしい、しかも太陽の位置は刻一刻と変わり、今私が避難している日陰を日差しが浸食してる、そうだ、東棟工場の中ならば日差しは最低限防げる筈だ、私は東棟工場の入り口を探した、皮膚は剥がれ、砂となり、もはや私の姿は醜く爛れていた、なんと不様か、しかも現世へと戻って来てしまったのだ、もはや私には伝承者としての再起は完全に不可能となり、混頓の存在その物も失ってしまった今、とにかく命だけは助かるよう踠くしかないのだ、東棟工場の入り口はどこなのか私は必死に辺りを見渡す、こうしている間にも日差しは私を追い詰めてくる、そこで私は思い出してしまったのだ、西棟工場は東棟工場が作られてかなりの年月が過ぎた後に増設された物であって互いの建物を行き来するための横の入り口や出口は存在せず、正面のシャッター横のドアのみが工場内部へ通じる入り口なのだと、東棟工場にせよ西棟工場にせよ、その入り口のドアへ向かうには日差しをその体に浴びなくてはならないのだ、一か八かを賭けて走ってそのドアを開けて中に飛び込むしか私の助かる方法はない、あぁ、なんという事だろう、これが混頓中毒者の、私の末路だというのか、しかし、まだ私の敗北が決まったわけではない、その時だった、私の背後を取った存在が現れて言ったのだ。
「君も“あの世界”へと行っていたのか?」
全身を焼ける様な痛みを受ける私に緊張感が過った、その声は知らない男の声だった、私は振り返らずにその声の持ち主に尋ねた。
「お前は、何者だ?」
「待ってほしい、君も混乱しているように僕も混乱しているんだ、僕はただ“あの世界”で“役割り“を終えて気付くとこの現世へと戻されていたんだ、“魔王を倒して”その直後に戻されてしまった、“仲間たち”に別れの言葉を告げることもなくだよ、君の、君の“役割り”は何だったんだい?」
「わ、私の“役割り”…」
あの世界での私の“役割り”とは何だったのか、私には明確な返答ができなかった、ただ、今私の背後にいる男には明確な“それ”があったのだ、私の推測が正しければ、この男は山のように巨大な竜を討伐し、たった数人で魔王の軍勢を退けたのだ、そして、何より私をこうして貶めた存在である、しかし、私はある種のトラウマによってその顔を見ることができないのである、もしも、私が振り返ることによって、その男の顔が「七色の顔」だったとすれば私は再び狂気にかられて卒倒してしまうだろう、そして、そこから立ち上がることもできぬまま、日差しにあてられ砂と化して絶命するだけである、ならば、このまま東棟工場の日陰の壁沿いを走り抜けて正面のシャッター横のドアを開けて中に飛び込めば活路を見出だせるはずである、しかし、そんな私の思考と覚悟を鈍らせる言葉を私の背後の男は吐いたのだ。
「もしも、君がまだ“役割り”を果していないのなら“あの世界”に戻ることができるんじゃないか?」
この期に及んで私は私の“役割り”なるものについて考えなくてはいけなくなった、もし、背後の男の言う通りならば私は踵を返してこの男の顔を見なくてはならない、そして、卒倒の果てに“あの世界”へと戻れるというチャンスがあるのだ、私は二者択一の選択を迫られてしまった、それを悩む間にも日差しは日陰を浸食している、私の“役割り”、それは何だったのか、悩み考えなくては出ない答えだが、その時間は今の私には無い、一刻も早く決断をせねばならない、私は…、私の“役割り”とは…、決断を、しなくては!────その瞬間に私は全身の力を振り絞り、全力で工場の壁沿いの直線を走り出していた、先ずは自分の命だ、その後に体勢を立て直し、自身の行動を考えればいい、全ては命があってこそだ、今はただ直線を走り抜けるだけだ、もはや後戻りはできない、背後の男の呼び止める声すら振り切り私は日陰の終わりまでを走り抜いた、後は日差しを一瞬浴びながらもドアを開けて工場の中に飛び込む覚悟をするだけである、日陰を浸食する日差しが迫っている、勝負はほんの一瞬である、三つ数えて行動するだけだ、「三、二、一!」次の瞬間に私は日差しの中にその身を投げ出した、ドアを開けようとしたその時、私の全身は砂と化した、もはやドアノブを掴まえることすらできずに崩れ落ちる私、その刹那の断末魔の咆哮、意識は光と程遠い闇の中へと落ちて行く、私は何一つ残さぬまま消え去って行くのか、これが人生の輝きを求め続けた者の最期だというのか、やがて意識は薄れ苦痛の意味すら分からなくなって行く、消える、消え去るのだ、ただ一つ、その瞬間まで私は私が私であるということの意味とそれに基づいた“役割り”なるものを思いながら風に吹かれ、日差しの満ちた大空へと消えて行く、そう、私はこうして消滅したのだった。
THE END




