第98話「異世界のはじまり、都市建設のはじまり」
世界がひっくり返るような光と音のあと——神原匠は、土と石のにおいに目を覚ました。
「……ここは……また、異世界か?」
周囲には見慣れない森、空には二つの月。だが今回は、彼ひとりではなかった。
「匠さーん! 無事っすかー!?」
「た、匠さん!? ここどこですか⁉」
高槻や市川をはじめ、現場の職人たち十数名も一緒に巻き込まれていた。敷鉄板の上に転がった工具や材料も現実世界から飛ばされてきている。
「どうなってんだ……」
その時、匠のスマホから聞き慣れた声が響いた。
《……異世界の扉が開きました。どうやら、こちらの世界と現実の世界が一時的に重なったようです》
「エル……お前、知ってたのか?」
《いいえ、私にも完全な予測は……けれど、これはただの偶然ではないはずです》
■
場所は異世界の辺境。かつては交易が盛んだったが、戦争と災厄で廃墟となった谷間の大地。そこに、残された人間と魔族の集落がひとつずつあるという。
「この土地に……共に住める都市を造ってほしい」
現れたのは異世界側の王女・シリス。かつてエルと共に戦った“異世界平和派”の指導者のひとりだった。
「人と魔族の壁を越えた都市を。この場所を、未来への希望にしたいのです」
匠は一度、全員を見渡した。戸惑う顔、不安な声。でも、どの顔にも“何かを為したい”という光があった。
「わかった。その都市、俺たちで建てよう」
■
さっそく現場の下見が始まった。
「地盤は……軟弱層か。砕石入れて地業からやらなきゃな」
「この谷間、風通しも悪いです。湿気もヤバい」
「こっちの川、使えそうっすよ! 飲み水にもなるかも」
異世界の地理と建築の常識を、現代日本の監督たちが次々と読み解いていく。匠の指揮のもと、徐々に“現場”が動き始める。
その様子を、魔族の一団が険しい顔で見下ろしていた。
「人間に都市を造らせるなんて、信じられるか……」
「だが、あの男の動きは……無駄がない。まるで魔法だ」
「アイツ、監督って言ってたな……何者だ?」
■
夜。焚き火のそばで、匠はエルに問いかけた。
「これは……偶然じゃないよな。俺たちがここに来たのは」
《はい。誰かが、意図的に“扉”を開いた可能性があります》
「誰が……何のために?」
《それはまだ……でも、ただの破壊や支配ではない気がします。きっと、この世界を“変えよう”としている》
匠は薪をくべ直す。静かに、でも力強く言った。
「だったら俺は、その変え方を“建設”で示すよ」
魔法と現場監督の力で築く、前代未聞の都市。
それが、世界を変える第一歩になる——かもしれない。




