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第94話「現場、再始動。最初の課題は“書類地獄”」

「神原、戻ってきて最初の仕事、気合入れてくれよな!」


丸山課長が笑いながら言う。


匠はスケジュール帳を開き、現場の全体工程、協力業者の数、そして机の上に山積みになったファイル群を見て、深くうなずいた。


「……これが、現実の“魔境”か」


書類の山。その正体は、


仮設計画書


施工体制台帳


再下請負通知


安全施工サイクル


現場用の施工要領書(最新Ver)


設備業者からの資料未提出の催促メモ


すべてが、現場監督が日々向き合うリアルな敵だ。


「神原さーん! 安全書類、6社分チェックお願いしまーす!」


事務員のひかりが笑顔でファイルを差し出す。


「うっ……わかった、やるよ」


この戦いは、剣でも魔法でもなく、スタンプと赤ペンで挑むものだった。



《書類とは……どれほど非効率なものか……》


スマホの中から、懐かしい声が漏れた。


「エル! 生きてたのか⁉」


《かすかに、あなたの“建築に対する情熱”が、私をここへ繋ぎ止めてくれたのです……。ですが、力はもう……》


「いいんだ、それで」


匠はスマホをポケットにしまい、ディスプレイとにらめっこを始めた。


「この書類、工程との整合がとれてない……修正必要だな」


「段取りが“魔法”だってこと、あっちで学んだんだ。今度は、こっちの世界で試す番だ」



昼休み。高槻がやって来て、机の書類を見てため息をついた。


「また課長が勝手に詰め込んだんすか?」


「ま、慣れてる」


「昔の神原さんなら、グチのひとつでも言ってたのに……」


匠は笑って答えた。


「最近、段取り通りいかない方が面白く思えてきたんだ」



夕方。チェックを終えた書類を提出し、事務所の椅子にどっかりと腰を下ろした。


「よし。魔法じゃなくても、片付くって証明したぞ」


小さく、スマホの画面に紫色の光がまた揺れた。


《あなたが選んだ“現実”……素晴らしい場所ですね》


——次の現場も、また忙しくなる。

だけど今の匠には、段取りと仲間がいる。

それだけで、現実世界の“現場”は十分、戦える。



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