表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/101

第90話「城は、すべての手で築かれる」

夜明けの王都。まだ陽が昇る前、濃い朝霧のなかで現場が動き始める。


「よし、今日は天守の屋根葺きだ。いよいよラストスパートだな」


神原匠は、遠くから徐々に見え始める城の全貌を見つめながら、静かにヘルメットをかぶった。


この異世界に来て、もう何週間になるのか。言葉も通じず、文化も違うなかで、図面を描き、材料を揃え、工程を組んで、衝突しながらも職人たちと心を通わせてきた。


あの日ケンカした職人頭のグラッツも、今では一緒に図面を囲む仲間だ。段取りの意味を理解し、前工程を整える重要性を現場で叩き込んだ。


「神原、こっちは壁面の飾り仕上げに入る」


「了解! 彫刻班には南面の照り返し注意って伝えてくれ。日中は直射がすごい」


「おう!」


職人たちの呼応が自然と整い、全体の作業がまるで生き物のように流れる。段取り、整理整頓、声かけ、安全確認――どれも日本の現場と変わらない。それでも、そこにあるのはこの異世界独特の“熱”だった。


エルが神原の肩にちょこんと乗る。


「……城が、形になりますね」


「うん。みんなの手でな」


「あなたの魔法も、大きな支えとなりました」


「いや、違うよ。俺はちょっと風送ったり、浮かせたりしただけだ。ほんとにすごいのは、ここの連中だ」


その時、風が吹き、城の最上部にかけられた最後の石材が、職人の手で据えられる。


「……てっぺん、据わったぞー!!」


歓声が上がった。異世界に新しい城が完成した瞬間だった。


王都の広場に設営された式典の場。王族が姿を現し、神原の元へと歩み寄る。


「お前の手腕、まことに見事だった。現場監督……という職能、我らの国に必要なものであると知った」


匠は頭を下げた。


「ありがとうございます」


「どうか、ここに残ってくれ。お前の知恵と経験が、我々に必要だ」


その言葉に、周囲の職人たちも息をのむ。


グラッツが肩を組んでくる。


「おい、ここに残ればいいじゃねぇか。お前となら、もっとすごいモン作れる」


匠は、笑った。迷いは、なかった。


「……俺には、帰る場所がある。まだ、向こうの現場が待ってる」


エルが、にっこりと笑う。


「あなたの旅は、まだ続くのですから」


職人たちが、一斉に拳を上げた。


「神原、ありがとうよ!」


「また戻ってきてくれよな!」


「現場監督ってやつが、何よりも頼りになるってこと……俺たちが証明したな!」


光が差し、匠の体が淡く輝き始める。


「……いくか。次の現場へ」


「はい、あなたの“段取り”が、また世界を変えていく」


こうして、神原匠は異世界最大の建築を完成させ――そして、現実へ帰還する。


その胸に、“仲間”と“建築の魂”を刻んで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ