表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/101

第36話「建築は、魔法を超えるか」

「魔法じゃなくて、建築で封じたいんだ」


事務所で、神原匠は小さくつぶやいた。


《……それは、なぜですか? 神原様なら、風でも光でも封印可能です》


「でもな、エル。これは俺の現場なんだよ。

魔法でどうにかするのは簡単だ。

けど“建築”で対抗できないなら、俺が“現場監督”である意味がない」


エルはしばし黙ったあと、微笑むように応えた。


《了解しました。では、建築で封じましょう。

……魔法より、ずっと堅牢な、“物理的結界”を》


事の発端は、ある地下階の躯体チェックだった。


施工図にはない「微細なひび割れ」。

放置できるレベルではなかったが、補修だけでは不安が残る。


匠はすぐに構造設計と相談し、補強壁の追加施工を決断した。


「この壁で、“異界の波動”を跳ね返せるなら……」


魔法ではなく、鉄筋コンクリートで。

強度設計と配筋密度、打設順序に至るまで、徹底的に詰めた。


■ 建築現場における“封印”


通常、魔法の封印には「術式」や「魔法陣」が用いられる。

だが現実の建築においては、「コンクリートという物質」が魔力の流れを遮断する性質を持つと、エルは指摘した。


《密閉されたRC構造は、魔力干渉を最も遮断する物理構造です。

つまり、“建築”は最強の魔封じ技術でもあるのです》


「なるほど……だったら、俺たちの土木工事も、意味が変わってくるな」


工事当日。


冬の朝、現場にはピリッとした緊張が漂っていた。


「今日は、魂込めるぞ!」


匠の声に、辰巳をはじめとした職人たちが頷く。


打設が始まる。

ポンプ車から流れるコンクリートが、鉄筋の隙間を満たしていく。


それはまるで、“異界と現実のあいだを埋める”ような作業だった。


午後。打設完了。


匠は配筋密度と結合部の納まりを再チェックしながら、そっとスマホを取り出す。


「エル。反応は?」


《魔力干渉、完全に遮断されています。

神原様……これは、“建築による完全封印”です》


「……やったな」


その顔に、神原匠は初めて“魔法を使わずに勝った”手応えを感じていた。


その晩。


缶コーヒーを片手に、現場の見回りを終えた匠が、事務所の階段に腰掛ける。


高槻がとなりに腰を下ろし、ぽつりとつぶやいた。


「今日の神原さん、なんか……いつもと違いました」


「そりゃそうだ。今日は、“俺の力”で乗り切ったからな」


「魔法じゃなくて?」


「そう。“現場監督”としてな」


しばらく沈黙が流れたあと、高槻が小さく笑った。


「……カッコつけますね、やっぱり」


「だろ?」


ふたりの間に、温かい沈黙が流れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ