第27話「消えた設計図、現場の混乱とエルの決断」
「神原、おい、これ見てみろ」
朝、現場事務所に怒鳴り込んできたのは、設計事務所の担当者だった。
「設計図のページが、まるごと抜けてる。いや、厳密には“図面が消えてる”んだ」
匠は図面を覗き込んだ。
そこにあったのは、真っ白なページ。
見慣れたコンクリート配筋の詳細が――そこだけ、ごっそり消えている。
「……破れてるわけじゃない。印刷ミスか?」
「いや、昨日まではちゃんと表示されてた。データも見たが、その部分だけバグのように空白になってる。紙もPDFも、どっちもだ」
匠は思わずスマホを手に取った。
「エル、これ……」
《はい。これは“魔力による情報消失”と見られます》
「……やっぱ、魔法かよ」
午前中、現場は混乱に包まれた。
消えたのは5階の設備スリーブ図面――
工程的には“今日まさに施工する”部分だった。
「え、図面見れないの!?」
「配管スリーブ、どこに入れりゃいいんだよ!」
職人たちが右往左往する中、匠は指示を出しつつ、ひとり事務所に戻る。
高槻も追いかけてきた。
「まさか……あの“もうひとり”の仕業ですか?」
「いや……違う」
匠はプリンタのトレイを指差した。
「この紙、“物理的”には正常だ。でも情報だけが消えてる。
これ……エルが言ってた、“異世界の崩壊”と似てないか?」
エルが応えた。
《はい。かつて、私の世界でも“魔力災害”が起きたとき、同じ現象が確認されました。
魔力の暴走が、“記録そのもの”を消し去ることがあるのです》
「じゃあ……今、この世界にもそれが?」
《あり得ます。異世界の力が干渉している……もしくは“目覚めかけている”存在がいる》
匠はしばらく沈黙したあと、静かに言った。
「エル、どうする? もう俺一人の手には負えねぇかもしれねぇぞ」
《……私の魔力を“制限解除”します。副作用はありますが、それでこの現象に抵抗できる可能性がある》
「副作用?」
《あなたの身体への負荷が増えます。最悪の場合、魔力の逆流で意識を失うかもしれません》
昼過ぎ。
匠は現場に戻り、消えた図面の代わりに自作のスケッチで職人たちに指示を出していた。
「こうやって、鉄筋のここを避けるようにスリーブを通す。干渉の可能性はゼロじゃないが、今はこれが最善だ」
辰巳親方がうなずいた。
「了解だ、神原。……お前、なんか最近、やけに冴えてんな」
「はは、ありがとよ」
その笑顔の裏で、匠の指先には小さな震えがあった。
エルの魔力制限を解いた影響が、じわじわと神経を締めつけていた。
夕刻。
消えた図面のあった空白部分に、わずかに“光のノイズ”が走った。
「来るな……また、“共鳴”が」
《神原様、注意してください。これは“異世界との接点”の予兆です》
「ここが……次の“揺らぎ”の中心になるかもしれねぇな」




