第26話「“魔法を知る者”との接触――影の向こうにいたのは」
夜の現場。
工事が終わり、職人もいなくなったはずの時間。
神原匠は、ただひとり、現場の5階フロアにいた。
風が抜ける。光が揺れる。
――そして、空気が“重く”なる。
(来たな……)
「隠れてないで出てこい。もう、逃げらんねぇぞ」
足場の影から、ふわりと黒いフードをかぶった人影が現れた。
顔は見えない。だがその手から、淡く光が漏れていた。
「君が、“風”の魔法使いか」
低く、落ち着いた声。
匠は警戒を崩さず言った。
「お前……どこでそれを知った。まさか、異世界帰りか?」
「……いいや。僕は“こっちの人間”さ。ただ、魔法を知ってしまっただけだよ」
「こっちの人間……?」
《神原様。魔力波長、確認。確かにこの世界のものですが、“異世界の知識”と融合しています》
エルの声が静かに響いた。
「おまえ、名前は?」
「コードネームは、“クロ”って呼ばれてる」
「コードネーム……何者なんだ、お前」
「観測者。いや、もとい……“模倣者”だ」
クロはポケットから、手帳のようなものを取り出した。
「数年前、ある研究所の廃棄現場にあった“古びた書物”――それが、魔法の始まりだった。
図面に見える、不可解な幾何学。建築と交差する魔法陣。
どうやら、ずっと昔にこの世界にも“魔法の痕跡”はあったらしい」
匠は無言のまま、一歩だけ前に出る。
「それで……お前は、何がしたい」
「答えはまだ出ていない。ただ、試したいんだ。“この力”が、この世界の中でどう作用するか」
「現場で、勝手に魔法を使ってたのはお前か?」
「観測していただけだ。君の力も、僕の力も、まだ未熟だ。
けれど……君には“指導者”がいる。声だけの、賢者のような存在。
君の中に、“異世界の記憶”がある」
匠は身構えた。
「……お前、どこまで知ってる」
「断片だけさ。ただし、“賢者”の存在は、僕の探していた“答え”に近い」
《神原様。敵意は感じません。ですが、彼の“思想”は不安定です》
匠は考えた。
(こいつ……敵じゃない。けど、味方とも言えねぇ)
「クロ。忠告しておく。現場は、実験場じゃない。人が働いて、命をかけてんだ」
「わかってるつもりだ。……ただ、僕は知りたいだけだ。“この世界の魔法”が、どこへ向かうのかを」
「それなら――」
匠は風を起こした。
その風が、クロのフードを軽く揺らす。
「次は、正面から来い。今度隠れたら、本気で怒るからな」
「……フッ、了解」
クロは笑い、風の中へと姿を消した。




