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ワイバーン急襲

◆北門付近


オルデンベア二頭を沈めたアメリア達は、剣を収めつつも緊張感を解かぬまま状況を確認していた。

 そこへ――。


村の方角。静寂を破るように、赤い光が空を染め始めた。

ゆらゆらと揺れる火の色が、防壁越しにぼんやりと浮かび上がっていく。


「……火……?」


ジョーが小さく呟く。

アメリアは素早く振り返り、険しい表情を浮かべたまま、思考を巡らせる。


(……おかしい)


オルデンベア級の魔獣など、本来であれば滅多に出現しない。

それが二頭同時に現れた時点で、既に異常だった。


(しかも、精霊様の加護が及ぶこの村の領域に、自ら踏み込むなど……常識では有り得ない)


オルデンベアクラスまでの魔獣は、本能で加護の領域を避ける。

それを押し退けて出現してきたという事実自体が、自然発生ではないと告げている。


(これは意図的な陽動か――)


そして今、背後で上がる火柱。

ベルダが築いた魔レンガの家屋が、通常の炎で燃え上がるはずはない。

火が上がっているということは、尋常でない力が働いている証だった。


「戻るぞ! 何者かに侵入を許している可能性が高い!」


アメリアは判断を下すと同時に走り出した。

ジョーたちもすぐにその背を追う。



「避難誘導は!?」


村の中心付近に先に到着したアメリアが問う。


「はい! 既に全住民、地下シェルターに避難済みです!」と盾副官が報告する。


「よし……ならば、火災の拡大阻止と敵の制圧を急ぐぞ!」


月光の下、村の中心部には既に黒煙が立ち上っていた。

高く昇る煙の向こう、月明かりを切り裂くように、遥か上空を何かが旋回している。



「……何がいるんだ……? 鳥……いや、もっと大きい……?」


アメリアは剣の柄にそっと手を添え、空を仰ぎ見ながら警戒を強めた。





◆村・中心部上空



遥か上空の男が、ワイバーンの背に跨り、地上を見下ろしていた。


「熊をもう処理したようですね……噂の女騎士は、どうやら“英雄”に至っていると見て間違いなさそうだ…」


男は薄く口角を吊り上げる。


「まぁ、レッサー(劣等種)とはいえ“竜”は“竜”。遅れをとることはあるまい。……とはいえ、念のため私は様子見といきますかね」


男が小さく指を動かすと、ワイバーンがゆるやかに旋回しつつ高度を調整していく。


(行け、ワイバーン。あの女騎士を殺せ)



地上では、遅れて到着したジョー、フェリシア、盾副官、部下の兵、避難誘導に当たっていた戦闘員たちが集結していた。

アメリアは一瞥するだけで、即座に状況整理と指示を下す。


「――第一優先、火災の延焼阻止および消火!」


「ジョー、フェリシアは私と共に! 他の者は三人一組で行動! 賊が既に侵入している可能性が高い。接敵して手に負えぬと判断した際は即刻戻れ! 以上、行動開始!」


命令を受けた者たちは散開し、それぞれの持ち場へ走り出していく。


ジョーがアメリアの隣に駆け寄り、声を掛ける。


「アメリア、敵――賊はまだ見つけてないのか?」


だがアメリアは黙ったまま、上空を凝視していた。

薄暗い煙の向こうに、異様な黒い影が僅かに形を浮かび上がらせる。


「……ん? でかいコウモリ……みたいな……?」


一気にアメリアの表情が強張る。


「――フェリシア! 私に再度“鼓舞”を! ジョーはフェリシアと共に後退!」


その緊迫した口調に、ジョーも驚きつつ後退する。


「フォーカス・エンカレッジッッ!」


フェリシアはすぐさま、アメリアへ上位のバフを重ねた。

同時に、ジョーの視界にも黒影がはっきり映り始める。

上空から――黒い影が凄まじい速度で迫ってきていた。


「りゅ……竜だ!!!!! アメリア、気をつけろ!!!」


その瞬間、バールが静かに囁く。


『劣等種――ワイバーンじゃの。あんなもの、どこから来おったか…まったく珍しいもんじゃ。しかしジョーよ、女騎士一人には、ちと荷が重いかもしれんぞ…』


「嘘だろ!? なんでだよ!?」


『地を行く“ヒト”と空を行く“竜”――どちらが有利かは分かるな?』


「…! そりゃ……。バール、何か妙案はないのかよ!?」


『ふむ……』


二人が会話する間にも、上空では黒き影が咆哮を轟かせ、ついに戦端が開かれようとしていた。


竜と騎士――空と地の死闘が、今始まる。





◆村・戦闘開始


先手はアメリアだった。

高高度より急降下するワイバーンを睨み据え、即座に剣を構え直す。


「―― 裂空葬剣(ヘヴンズ・シヴァ)


その刹那、一太刀が空を切り裂く。真空の斬撃が数秒遅れて尾を引くようにワイバーンへと襲い掛かる。

視認困難な追撃型の必殺剣。しかし――


ワイバーンは軽く身を捻り、薄紫色の風の障壁がわずかに光る。

皮膚には浅い裂傷が走ったが、厚い鱗は致命傷を許さぬままだった。


「……なんだと!?」


アメリアが驚愕する間もなく、ワイバーンが上空から鋭く突進してくる。

爆速で迫る巨体に、アメリアは咄嗟に風魔法を発動。


「――迅脚陣(スウィフトゲイル)!」


足元から生まれた風圧が身体を一気に押し上げ、突進軌道を寸前で回避する。

だがワイバーンはすぐさま口を開き、火炎を吐き出した。


「なっ…!!」


迸る業火。アメリアは再度、瞬時の回避機動で躱すが、拡散された炎が視界を覆う。


その炎幕を突き破り、再びワイバーンが高速で突っ込んできた。


「くそっ……!」


アメリアは即座に第二のスキルを発動する。


「――雷風刃装(イクシード・ブレイド)!!」


高圧縮・高振動の雷光がアメリアを包み、鎧のように全身を守りながら雷音を伴った刃が展開される。

迫るワイバーンの突進をギリギリで受け流し、反撃の斬撃を叩き込んだ。


雷光がワイバーンの皮膚を焼き、紫電が走る――しかし、やはり傷は浅い。

軽度の火傷こそ与えたが、致命打には遠い。


挿絵(By みてみん)


(消耗が……早い……!)


雷風刃装(イクシード・ブレイド)の膨大な魔力消費では、アメリアの魔力をもってしても長期戦は不可能だ。


離れた位置では、ジョーが歯噛みしながらアメリアを見守っていた。


「アメリアは……あんなに必死に鍛錬して、ようやくあの力(仮初の借金)を自分のものにできたのに……!」


ワイバーンは距離を取り、今度は広範囲に拡散させたブレスを吐き出した。

火炎の壁がアメリアの視界を奪う。


アメリアはその中からワイバーンの次の行動を読む。


(来る! 再度、炎の中からの突進!)


「――真雷爆閃ヴァルカニック・ブレイク……」


アメリアは力を溜め、一気に雷の力を高めていく。

麻痺と貫通力を備えた広範攻撃。だが――


「……いない!?」


拡散炎の後、ワイバーンは音もなく飛び立ち、虚を突いた。


「アメリアァァッ! うえだぁぁぁぁぁっ!!」


ジョーが叫ぶ。


アメリアは咄嗟に空を仰ぎ、溜めた真雷爆閃ヴァルカニック・ブレイクを上方へと振り抜く。

だが、ワイバーンは滑空から急激に軌道変更し、斜め下方から急降下してきた。


『不味いのぅ……竜に魔力の流れを完全に読まれておるぞ』


「どういう事だよバール!?」


『劣等種とはいえ、竜は精霊に近しい存在じゃ。加護を持ち、魔力の流れも自在に読む。

こちらの魔法発動の余波も、あちらには丸見えよ』


「嘘だろ!? なんでだよ!?」


『奴にとってみれば、魔法は"呼吸"と同義よ』


ジョーは奥歯を噛みしめ、叫んだ。


「そんなの関係ねえ! 俺が”強化”すれば――!」


『――やめておけ。』


「なんでだよ! アメリアに"投資(BTC課金)"するしかねぇだろ!!」


『残念だがジョー…以前、大量の"投資(BTC課金)"を女騎士とお主の間で行っておるが――その”回線”が脆くなっておる。毎日、少しずつなら問題ないが、今この場で急激に注ぎ込めば――双方の魂が持たぬぞ』


「そんな……」


ジョーの拳が震えた。

目の前で、アメリアは巨大な竜とただ一人、命を賭けた戦いを続けている。




◆村・戦場



ジョーは奥歯を噛みしめ、フェリシアと共に"死闘"を見守り続けていた。

アメリアの孤独な戦い。迫りくるワイバーン。

自分は何もできないのか――その焦燥が膨れ上がる。


その時、バールの声が再び静かに響いた。


『――じゃが、ジョーよ。お主が”自身”に"投資(BTC強化)"するのは別の話じゃ。かなりの額が消し飛ぶじゃろうがのぅ……』


ジョーの瞳が揺れる。


「金なんてどうでもいい!! バール! どうすればいい!?」


ジョーの魂の叫びに、バールの声がわずかに低くなる。


『……お主のスキル、《デジタル記憶保持》。――これを強化せよ。』


『恐らく、これにより回線問題はクリアできるはずじゃ。契約の耐久力、記憶処理帯域、双方が飛躍的に増す。魂の圧縮アルゴリズムが変わるからの。』


「わかった!!」


その瞬間――


ジョーの眼前に、光のウインドウが浮かび上がった。

そこには機械的な文字が流れている。



【進化選択】

保有スキル:《デジタル記憶保持》


次段階進化可能スキル:《ブロックチェーン》


効果:

・契約安定性強化

・被雇用者のスキル共有領域拡張

・遠隔強化・課金負荷許容量上昇

・記憶連結領域拡張


消費:100BTC


――課金しますか?


▶ YES

▶ NO



挿絵(By みてみん)


 ジョーは迷わなかった。

 即座に叫ぶ。


「――YES!!!!」


ビットコインが瞬時に溶け、デジタル空間に黄金の光が走った。

ジョーの内部で何かが書き換わり、ネットワークの中枢が再構築されていく感覚――まるで、魂が再フォーマットされるような奇妙な圧迫感が押し寄せた。


『……よし。間に合ったの。これで女騎士との契約回線は耐えられるはずじゃ!』


「アメリアァァァァ!!! ――"課金"いくぞッ!!!」

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