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ヴァルグレイス本格始動

◆課金の毎日


帰還から一週間。

牧場の家畜たちはすっかり回復し、ジョーは毎日のように対価契約と課金強化を繰り返していた。


豚、山羊、鶏、馬――。家畜達に神貨(BTC)を注ぎ込み、飼育効率や繁殖力、体力を底上げしていく。


「……よし。家畜はだいたい仕上がったな」


ジョーはウォレットの残高を確認しながら、ふと呟いた。


「にしても……俺のステータスって、全然増えねぇのな……?」


そこに、脳裏に響くバールの声。


『む…? お主には経験値という概念が無いようじゃぞ? 全て"神貨(BTC)"になって貯まっておるようじゃ』


「……そうなの?」


『儂らのこの”世界”では、経験そのものが“経験値”という形で還元されておる。しかし、お主の場合は"契約"を結んだ"モノ"達の経験値までもが"神貨(BTC)"に変換されて還元され貯まっていく…羨ましいのぅ』


『それとジョーよ』


「なんだ?」


『何故"金"を使う事を恐れるんじゃ?』


「…恐れて……るんだろうな……。

前世で金を搾取されるシステムがあって……」


『それは前に聞いたわい、“税金”とかいう理不尽制度があったと』


「……」


『ジョーよ――わしが言いたいのはな…』


バールの声に力がこもる。


『“金”は使ってナンボじゃ!!』


『死蔵させておくだけじゃ何も生まん。

"金"にサボらせるでないわ。

儂が見込んだ男じゃろう!

お主には“投資”の才能がある。

恐れず、ドーンと使わんかい!!』


ジョーはしばし黙り込んだが、やがて小さく笑った。


「……そうだな!」



その時だった。


スマホの画面に、見慣れぬ新たな項目が浮かび上がる。



《ヴァルグレイス》

《管理者権限》


神貨(BTC)を投資可能

・役職・職能・適性に応じ、自動ポートフォリオを作成し、"リバランス"を行います

・必要経費:全保有BTCの50%


《全BTCの半分を"投資"しますか?》


【YES/NO】



「ヴァルグレイス…? 村の事…だよな…?」


ジョーが驚きつつ画面を見つめていると、バールの声がまた響く。


『ジョー――かましてやれい。迷うな。これはお主にしか扱えぬ”浪漫投資案件”よ』


ジョーは息を吸い込み、画面に指を重ねる。


「――YESだ!!」


次の瞬間、スマホから放たれた光が天へと舞い上がり、村全体を包み込んだ。

金色の光粒が、空から雨のように降り注いでいく。


村に所属する者、建築物、土地、あらゆる"モノ"達へ――村の隅々が黄金色の輝きに染まっていく。




◆ヴァルグレイス起動



「な、なんだ!? 空が光って……!?」


「魔法か!? 敵襲か!?」


「神の御業か……!!」


突然の光景に、村民たちは軽くパニックを起こしていた。


ジョー(投資家)バール(投資コンサルタント)は"神貨(BTC)"が巻き起こした光景を満足気に眺めていた。


『いやぁー、豪快に"金"を使うのはやっぱりええのぅ!!!』


「バール! 気が合うなあ、散財するのはこんなに気持ち良いものだったんだなー」


そんな1人と幽霊の元へ、慌しい足音が近付いてきた。


 ドタドタドタッ――!


「ジョーッッッ!!!! 

説明しろ!!!!!!」


アメリアが血相を変えて神速でやってきた。

顔を真っ赤にし、完全に怒り心頭である。


『おぉ…女騎士、怒っとるのぅ』


「あ……やっぱり黙ってやったのはマズかった感じ…?」


アメリアにはジョーの言葉は聞こえていないようである。


「来い!!!!」


――


急遽、集会所に主要メンバーが招集されることになった。


長机を囲んで座るのは、今や村の核となる人材たちだった。

•騎士団からはアメリア、盾副官、フェリシア

•ドワーフからはドレット、ベルダ

•村民代表としてジノと村長いたのか…

•先日スカウトした牧場主

•移民団の代表、スカルガン。


集まった全員の視線がジョーへ集中している。

特に熱い視線を送っているのは、アメリア、ドレット、牧場主だ。


アメリアがジョーへと短く言い放つ。


「説明しろ」


「――あー、えっとだな」


ジョーは頭を掻きながら説明を始めた。


「さっきの光は、俺の“魔法”だ。皆の成長……というか、適性を伸ばす…みたいなもんだと思ってくれ」


室内がざわめく。


「え?」

「成長を……?」

「そんな魔法が……?」


アメリアが椅子から立ち上がり、怒りの続きを再開した。


「ジョー!! そういうことは事前に説明してから行使するべきだろう!!

これは大規模魔法の類に該当する! 勝手に行えば不安を煽る要因にもなるんだぞ!

規律の――」


「まあまあ、アメリア隊長」


盾副官がそっとなだめる。


「今回は村のためにやった事ですし、被害も出ておりません。抑えて抑えて…」


「アメリア様、勘弁してやって下さい! ジョーに悪気はねえんです!」


ジノも慌ててフォローに入る。

 

その横では、ドレットと牧場主が正座状態となり、ジョーを拝み倒していた。


「ジョー様……!」

「神の化身……!!」


ベルダは苦笑しつつも、若干同意気味に頷いている。


スカルガンは興奮気味に叫んだ。


「アメリア様もアニキも……スゲェや! 俺ァ一生ついていきやすぜ!!」


村長はというと、どこまでも穏やかに笑顔を浮かべていた。


「人も動物も増えてええのぅ……活気が出てきてえぇのう」


――

 

混乱が収拾不能になりつつあったところで、盾副官が手を叩き全員を制した。


「――はいはい! 一旦落ち着きましょう! 理由はともかく、折角、村の主要メンバーが集まりましたので目下の懸案を相談しましょう!」


盾副官は一旦、ジョーの魔法の件は放置する方針の様だ。

 

場が静まったところで、会議が正式に始まる。


「王命について議題を整理します」


盾副官が口早に要点を読み上げる。


「まず、移民千人の追加受け入れ。

次に、魔獣騒動の本格調査任務。

これらに対応するため、今後の村の方向性を決定したいと思います」


アメリアは唸るように腕を組んだ。


「……簡単ではない。だが、乗り越えねばならぬ」


その時――


「アメリア様!  すいやせん!」


突然スカルガンが手を挙げて叫んだ。


「移民の奴らの間でも話題になってるんですが……この”村”、正式な名前ってあるんですかい?

名前があった方が愛着も湧きますし、皆んなも士気が上がると思いやして!」


場の全員が自然とアメリアへと視線を向けた。


アメリアは小さく息を整え、静かに告げた。


「知らん…村長に聞いてくれ」


皆の視線がニコニコ笑顔の村長に向けられた。

そして、村長は穏やかに口を開いた。


「無いよ?」


スカルガンのテンションが一気に下がる。


「そうなんですか…命名したりはしないんで?」


「だって今まで必要なかったからのう、そういう大事な事は、アメリア様にお願いしようかの」


再びアメリアへ注目が集まる。


「…村の名前……ジョー、頼んだ」


「えっ? おれが決めるの?」


「おぉっっ! 流石アニキ! 頼りになりますぜ!」


全員がジョーの発言を待っていた。


「あっ、良いのがあるわ! ヴァルグレイス! どうだ!?」


その名が告げられた瞬間、場には自然と拍手と歓声が広がった。


「おお……!」

「ヴァルグレイス!」

「いい名前だ!!」


「完全にアメリアから取った名前だけどな、雷の戦女神(ヴァルクレス)と、《グレイスハルト》を合体させた感じだな!」


「なんだか……強くなれる気がします!!」


フェリシアも、呼び出されてからずっと緊張の面持ちだったが、初めて笑顔を見せていた。

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