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南海の失踪事件


 紅葉も色づき始め、天良と末那の結婚式が間近にせまったある日、日神家と九条家の話し合いが日神家で行われた。話題は、天良が日神家の婿養子になる件である。これは、由緒ある日神家に跡継ぎが居なくなるのは問題だと、天良の両親が言い出したことだった。婿養子の件はその場で決定となり、日神阿頼耶は天良の両親の真心に深々と頭を下げた。


 ただ、天良が日神家の後継者となっても、末那の父が経営する会社を継ぐ事はせず、今まで通り、末那と警視庁での仕事をすることが確認された。



 天良と末那の結婚式は、予定通り佳き日に行われた。富豪の一人娘の結婚式は、大勢の人に祝福されての盛大なものとなった。

 純白のウエディングドレスに身を包んだ末那が姿を現すと、その美しさに天良は見とれ、会場からは感嘆の声が漏れた。


 来賓には、政財界の大物や芸能界スポーツ界など、錚々たる顔ぶれが揃い、日神阿頼耶の人脈の層の厚さがうかがえた。

 式場では、終始笑顔を振りまき接客する末那の傍で、天良は、緊張気味に精いっぱいの笑顔を作っていた。


 天良にとって、緊張の連続だった結婚式も無事終わり、二人は新婚旅行へと出かけた。

新婚旅行はヨーロッパ諸国を周り、楽しい思い出を刻んだ。



 旅から帰った二人が二週間ぶりに警視庁に出勤すると、彼らを待っていたかのように新たな事件が起きていた。



「今回は、トカラ列島の島々で若い男性の失踪事件が多発している事件です」


 室長としての采配も様になって来た星見警視正が、テレビ映像を示しながら、事件の説明を始める。


「詳しく説明しますと、失踪したのは合計十人で、居なくなったのはそれぞれ別の日です。トカラ列島在住で、二十歳から三十歳の若い男性ということ以外、彼らに特別な繋がりは無いとのことです。

 十人とも、フェリーに乗って出掛け、そのまま消息を絶ちました。鹿児島港にフェリーで降り立った形跡もなければ、列島唯一の飛行場である、諏訪之瀬島の飛行機に乗った記録もありません。それで、列島内の五つの無人島も捜索したのですが、見つかりませんでした。

 生死は別として、彼らはまだトカラ列島のどこかにいるはずだというのが、鹿児島県警の見立てです」 


「当然、島の漁師など個人所有の船も調べたんでしょうね」


 六根警部が、念のためと口を挟んだ。


「はい、漁師などへも聞き込みをしましたが、彼らを乗せたという事実はありませんでした」


「そうですか。誰かが嘘をついているという可能性もありますが、十人もの人間が忽然と消えるなんて、不思議な事件ですねえ……」


 推理が詰まった六根警部が、腕を組む手に力を込めた。すると、


「そこまで調べが進んでいるのなら、私が直接行って、残留思念から失踪者の行方を探した方が、話は早そうですね」


 天良と肩を寄せ合うようにして聞いていた末那が、話を進めた。


「旅行から帰ったばかりで申し訳ないですが、そうしていただけますか。では、トカラには、末那さん天良さん六根警部の三人に行ってもらいましょう。後のメンバーは、天川照子あまかわしょうこさんと共に、別件の捜査をしてもらいますので、よろしくお願いします」


 室長の言う天川照子は、異能力特捜室の二人目の能力者のことで、物に触れるだけでそれに纏わる過去を読み取り、遺留品などから犯人を特定する能力を持つ、頼もしい新人である。



 次の日、末那たちは朝一番の飛行機で鹿児島へ飛び、そこからフェリーで、トカラ列島で一番大きな島である中之島を目指した。


 トカラ列島は七つの有人島と五つの無人島から成り、行政名は十島村である。人口は全体で七百人ほどで、中之島は150人余りが住む島である。

 フェリーの所要時間は六時間ほどかかるが、出航は23時のため、眠っている間に島に着けるので、暇を持て余すことはなかった。



 中之島の港には、鹿児島県警中之島駐在所の猫山巡査が迎えに来ていた。彼は三十過ぎの独身者で、列島唯一の駐在所員として、一人で島々のパトロールをしているそうである。


 交番に着いた末那たちは、小さな机を囲んで話を進めた。


「私は、警視庁異能力特捜室の日神末那と申します。私の能力は、生死は別にして、人の思念を追うことができます。例えば、ご遺体があれば、その人の生前の記憶を見ることができるのです。今回のような行方不明者を探す場合は、その人の住んでいる家に行って、残留思念を追えば、行方が分かると思います。

 それで、この十島村の失踪者の中で、一人暮らしの人はいますか?」


「そんな凄いことができる人が、本当に居るとは驚きです……」


 猫山巡査は、末那の顔をまじまじと見つめてから、「一人暮らしですか……」と、失踪者名簿に目を落とした。


「ああ、悪石島の鳥島光流とりしまひかる君は一人暮らしですね。両親は鹿児島市にいて、本人は、親戚の家の近くの一軒家に住んでいます。でも、どうして一人暮らしの人なんです?」


「家に染み付いた人の残思念を探る場合は、たくさんの人が暮らしていると特定しずらいんです。一人なら、その人一色の思念だけが染みついていますから、分かりやすいという単純な話です」


「なるほど、そういうことですか。――では、県警の手配で、海上保安庁の警備艇『はやせ』が港で待機してくれていますので、早速行ってみましょう。小型艇ですので揺れますが、大丈夫ですか?」


「船酔いの方は心配いりません。参りましょう」


 末那たちは、警備艇『はやせ』に乗って悪石島を目指した。所要時間は一時間余りである。南海の海と島々の遠めの景色を楽しんでいる内、船は悪石島に到着した。


 悪石島は、ガジュマル、アコウ、ビロウなどの亜熱帯植物に覆われた周囲12キロの小さな島で、人口は90人ほど、畜産や農漁業が主な産業だと猫山巡査が説明してくれた。


 一行は、待機していた車に乗り、曲がりくねった坂道を上って、鳥島宅を目指した。


「空気はおいしいし、都会の雑踏もない。あるのは青い空と青い海、一度こんな島でのんびり暮らしたいもんですなぁ」


 六根警部が、牧歌的という言葉が似合う島の景色に、憧憬の目を向ける。


「そうですね。不便さはあるでしょうが、ここの生活は性に合いそうです」


 天良も相槌を打ち、温泉や食べ物の話が出たところで、車は目的地に着いた。


 家は、木造平屋建ての一軒家で、築三十年は経過していそうである。猫山巡査が先に立ち、玄関の引き戸を開けて家の中に入った。孤島であるので犯罪も少なく、鍵をかける人はいないそうだ。


 若い男性の家にしては、中は整頓されていて、綺麗に使われている。


「では、これから、鳥島光流さんの思念を探ってみますね」


 末那は、居間と思しき部屋に座ると、猫山巡査に声をかけ、目を閉じて鬼眼を開いた。

 一心に精神を集中して身動き一つしない末那の姿に、不可思議なオーラを感じた猫山巡査は、ゴクリと唾を飲み込んだ。


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