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異能力特別捜査室

久々の投稿です。よろしくお願いします。

 天良が日神家に移り住んで数日後、警察庁から連絡を受けた末那と天良は、渡世を伴って警視庁へと向かった。

 案内されたのは十六階の一室で、部屋の入り口には、"異能力特別捜査室"と書かれた真新しい表札が掛けられていた。


「末那さん、天良さん、ご婚約おめでとうございます。又、一緒に働けて嬉しい限りです」


 ドアを開けると、目に飛び込んで来たのは六根警部の笑顔だった。彼は、今まで事件を介し、末那と直接係わって来た唯一の警察官であるから、当然の人選と言える。他に、五人の刑事が末那たちを迎えてくれた。


「警部、こちらこそ、引き続き宜しくお願いします。皆さんも宜しくお願いします」


 末那と警部たちが挨拶している所へ、この城の主である警視総監が、側近数名を従えて部屋に入って来た。六根警部たち警察官は一斉に立ち上がり、最敬礼で総監を迎える。都内4万人以上の警察官の頂点に君臨する警視総監は、彼らにとって雲の上の存在である。


「皆、楽にしてください。末那さん、本日よりお世話になります」


 警察庁長官の肝いり故か、こうした小さなチームの開設に総監が来るのは珍しい。総監は、末那に丁寧に頭を下げた後、皆に向き直った。


「今回、能力者である日神末那さんに協力してもらって、異能力特別捜査室が正式に開設することになりました。人の心が乱れた今の社会は、事件も複雑化し凶悪化しているように思われます。それらに対応すべく、結成されたのがこの特捜室です。

 この特捜室は、全国の警察からの高難度事件の要請を受け、事件の内容を精査したうえで、対応していきます。能力者を中心とするチームの編成は初めてですので、面食らう場面も出て来るでしょうが、皆で心を合わせ、取り組んでもらいたいと思います。

 では、室長の星見三千ほしみみち警視正を紹介します。彼女は若いですが、私も期待する逸材です。どうか、皆さんで支えてやってください。星見君、挨拶を」


 総監に指名され、星見室長が立ち上がった。年は三十くらいか、緊張の為か整った顔が少し青ざめている。


「只今、総監からご紹介いただきました星見です。若輩で至らぬところも多々あるかもしれませんが、精一杯務めさせていただきますので、よろしくお願い致します」


 簡潔に挨拶をした星見室長は、室員の紹介へと移った。


「では、メンバーを紹介します。日神家からは、末那さん、婚約者で秘書の九条天良さん、運転手の渡世さんの三名です。警視庁からは、六根警部、大川刑事、里見刑事、高橋刑事、松方刑事、市川刑事の六名が、サポートにあたります」


 名前を呼ばれた面々は立ち上がって、「宜しくお願いします」と、頭を下げた。


「では、諸君の健闘を祈ります。何かあれば、いつでも私に相談してください」


 総監は皆に笑みを送ると、退出していった。


「では、早速ですが、第一号案件が来ていますので、始めたいと思います」


 総監が居なくなって、緊張が解け、ホッとしたところに、星見室長の声が無情に響く。


 部屋の隅に設置されたソファーに移動した面々が、星見室長から、資料を受け取っていく。ここは、簡易な衝立で仕切られた、会議室兼応接室といったところか。警察庁長官の肝いりと言えど、室員十名では、そう大きな部屋は割り当ててくれないようだ。


「これは、青森県の村で起きた事件です」


 青森と聞いて皆の顔が曇った。現場に移動するにも時間が掛かるし、長期出張も覚悟しなければならないからだ。皆の反応を無視して、星見室長が事件の内容を説明していく。


「これは、クマに襲われたと思われる遺体が発見された事件です。モニターを見て下さい」


 彼女はパソコンを操作して、壁にかけられたテレビ画面に、遺体発見当時の現場写真を映し出した。


「現場は青森県黒石市の農道で、今年の三月二日十五時頃に、近所の中村錦一さん六十九歳が襲われました。死因は、クマの爪で、頸動脈を切られたことによる失血死です。所轄警察の調べでも、クマによる襲撃事件だと確定していたのですが、最近になって『この事件は人による殺人事件だ』と、警察に匿名で投稿して来た者がいるのです。投稿内容の真偽はまだ分かりませんが、調べる価値はあると判断されて、私達への依頼となったようです」


「真偽の分からない匿名の投稿だけで、我々が動くというのはどうなんでしょう」


 六根警部が疑問を口にすると、皆も頷いた。


「私もそう言ったのですが、決定事項だと突っぱねられました。恐らく、末那さんを中心とした正式なチームの、実力を見たいというのが上の本音かもしれませんね」


「なるほど、それならやるしかないですね。ササッと解決して上を驚かせてやりましょう。末那さんどう動きますか?」


 六根警部の視線を受けて、末那が口を開いた。


「そうですね。先ずは、本件は殺人事件と決めてあたりたいと思いますので、ご承知おきください。一つ目は、投稿された手紙から手掛かりを探しましょう」


「それは私達が」


 手を挙げたのは、大川と里見だった。彼らは、未婚の三十代のメンバーである。


「ではお願いします。二つ目は、過去五年以内に起きた、全国のクマによる殺人事件で、今回のように目撃者がいないものをピックアップしてください。髙橋さんお願いできますか」


「分かりました」


 高橋は三十代後半の既婚者で、パソコンやネットに詳しい。


「三つめは、青森の事件を徹底検証します。現地へ行って、現場や資料を基に探っていきましょう。現場では、私の能力を使って、被害者の残思念を探ってみるつもりです。遺体があれば、間違いなく被害者や事件当時の様子が把握できるのですが、殺人現場だけでは、どれだけ情報が取れるか私にも分かりません。

 青森へは、残った全員で行きます。出張は三日間としたいと思いますが、星見室長よろしいですか」


「それで結構です。現地の警察には、私から受け入れ態勢をお願いしておきます。では、よろしくお願いします」 


 星見室長が立つと、残りのメンバーもそれぞれに動き出した。果たして、異能力特別捜査室は、順調に軌道に乗るのだろうか。




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