ここ、人の家。
ザバアーー!
ザブバァー!
という言語にするとこんなにも語彙力のない水音が。
こんっっなにも恐怖だった事が!未だかつてあっただろうか。
いや、このアパート沈没(?)したらどうしよう?とかは思ったりしたけど。
この音は近づいてるのだろうか?
あの踊り場からもう入って来ている?
アレは何?
妖怪?
物体としてあるの?
水は扉の隙間、窓の隙間からも入るだろう。
水と一体化してるような化け物なら、簡単に入り込めてしまう。
ビビりなのにホラー映画の見すぎ?
私が動いてるから餌だと思ってるのだろうか?
あんなにビビりまくってたのに、何で、他の人の事考えたら忘れてるんだろう。
何で私こうなの?
1個何かやれば、すぐに忘れちゃう。
違う、まだボケてない。
でもちょいとヤバい。
呆けてる場合じゃない。
ここは人ん家だ。
お向かいさん、鍵かかってなかった。
ずいぶん、スッキリしてて明るいな。
ようやく少し落ち着いて、顔上げて見回してみた。
勝手に入って内鍵かけたまま、玄関でしゃがみこみかけてた。
扉に背中つけるほどの度胸もなく、かといって鍵はかけたものの、入られる恐怖からドアノブ近くに片手をつけたまま。
完全に膝をつくのも躊躇して、半端に膝を曲げて下を向いていた。
さっきまでの警戒をすっかり忘れ、人を探すつもりで室内を見たのだけれど。
そこには何もなかった。
確かに入居者がいたハズの部屋なのに、一切の家具もなく、最初から誰も居なかったかのようだ。
もっと精神状態が安定してたら、内見に来ていると勘違いしそうだった。
本当にどうなっているのか。ウチの姉ちゃんより跡形もない。
鍵はこういう場合(入居者がいない場合?)むしろかかってそうなものだが、開いた。
それに明るいのも当たり前だ。
外は晴れで今は昼で、カーテンもないんだから。
ん?
カーテンがなくて、
ザバーン、ザバーン?
おそる、おそる
そーっと、そろそろと左手側の窓を目で探す。
205号室と同じく備え付けのキッチンがあって、その向こうの窓が……。
「ぎゃあぁあああーー!!」
巨目仮さんはガッツリ私を見ていた。
多分人生第1位の悲鳴を上げてはいる私だが、からっからの喉で途中で声もかれかけ、身体も凍りつくばかり。
デカイ声の割りに何の次のアクションも取れず、全然可愛くない1つ目の巨大真っ〇黒助を凝視するだけ。
ホントに可愛くないので、気持ち悪さはむしろタ〇リ神に近いが、モジャモジャの毛(?)はそこまでアグレッシブそうでもないし、メデューサみたいに1本ずつ動いてもいなそうだった。
つまりただ黒いモジャモジャウネウネの中央に巨大な目があるだけだった。
こんなに怖くて動けないだけなら話しかけられたほうがマシなんだろうか?
無理。
人様の家とか言ってられずに今度こそ室内に侵入した。
土足で。
とはいえ、カーサフクダは吐き出し窓の明るい部屋(多分リビング用)が印象的な物件。他の部屋も窓が大きい。出窓もある。
つまり見られまくり。
戸が閉まる部屋を目指して1人で(多分わーわー叫びながら)外から見えない場所を探す。
もはや自分の部屋に戻ったほうが結果として早いのだけど、怪異(何か海)中の怪異(巨目さん)を前に、冷静さなど微塵もない。
多分ほぼ同じ作りなので、お風呂とトイレのある側を戸を引いてしまえば、見られなくなるとわかっているのだが、お風呂の扉が磨りガラス風でやや透ける。
お風呂の窓にじーっと寄られると、角度によっては見られるかもしれない。
それが怖い。
籠りたい。
逃げたいです。
天に祈りが通じたのか、1部屋開けたら暗いところがあった。
神よ!と思いながら入って戸を閉める。
無信教者で、一神教に抵抗感のある私が唱える神がいったい誰なのか、私もわからないが、感謝とは尊い。
神様、ありがとう。
魂は捧げないけど感謝します。
とっさにカーテンが窓に掛かってるの見て入ったけど、ここはなんだろう?
他の部屋は本当に入居前、という感じだった。
少し暗さに慣れ見回すと、家具等が押し込められているようだった。
え?
何か怖い!