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第10話:狂戦士

「来ヌノカ?」


 構えを取っていたヴァンパイア・ナイトが対峙するヤマドー=サルトルとルナ=マフィーエにそう問いかける。自分と距離を取る2人に対して、挑発ともとれる発言をしたわけだ。ヤマドー=サルトルはアズキ=ユメルがトッシェ=ルシエの回復に集中しているため、こちらに支援を出来るような状況かどうかを判断しかねていた。


 しかしながら、あちらはあちらで生きる水死体リビング・ウォーター・デッドの注意を一手に引き受けている。敵を分断できている以上、ヤマドー=サルトルたちも動かざるをえない状況に陥っていたのである。


「コチラから参ル!」


 ヤマドー=サルトルたちの逡巡を見抜いたのか、先に動いたのはヴァンパイア・ナイトの方であった。右足を前方へ大きく一歩踏み出し、幅広の長剣(ロング・ソード)を縦に振る。虚を突かれたヤマドー=サルトルはその攻撃を真正面から受けることになる。


「くううう!」


 ヤマドー=サルトルは戦斧(バトル・アクス)を盾代わりに、ヴァンパイア・ナイトの初撃を受け流す。しかしながら、振り下ろしたばかりの長剣(ロング・ソード)を今度は下から斜め上へ跳ね上げさせて、ヤマドー=サルトルの右わき腹に叩きつける。もし、ヤマドー=サルトルが全身鎧(フルプレート・メイル)を着こんでいなかったら、今の逆袈裟斬りで深手を負っていただろう。


「ヤマミチ! ええいっ! わらわの旦那様に何をするのじゃっ! 炎の柱(ファー・ピラー)発動なのじゃっ!!」


 ヤマドー=サルトルがヴァンパイア・ナイトの1撃をもらったことで、ルナ=マフィーエは一瞬で頭に血が昇り、激昂する。彼女が両手で支える魔法の杖(マジック・ステッキ)の先端に取り付けられた碧玉(サファイア)が紅く明滅し、そこから螺旋を描く炎柱が噴き出る。それは横向きの紅色の小さな竜巻が巻き起こったかのようにも見えた。


「フンッ! こちらから先に始末スベキダッタカ!?」


 ヴァンパイア・ナイトは自分に向かって接近してくる炎の螺旋を左手に持っていた楕円形の盾で防ぐ。しかし、炎は盾を飲み込み、さらにはヴァンパイア・ナイトの左腕にも延焼していく。


「ざまあないのじゃっ! そのまま、全身を焼かれてしまえなのじゃっ!」


 ルナ=マフィーエがほくそ笑みながら、魔法の杖(マジック・ステッキ)の先端から炎を産み出し続けていた。それはまるで火焔放射器のようになっており、今や彼女の創り出した炎はヴァンパイア・ナイトの左肩までをも飲み込んでいたのである。


 しかしながら、ルナ=マフィーエは産み出していた炎を急に勢いを衰えさせてしまう。そして、ルナ=マフィーエは、はあはあと荒い呼吸をしだす。如何せん、彼女は残心もせずに魔法を唱え続けてしまったために、自分の身に宿る『気合』を全て消費しきってしまったのだ。


「ヤマミチ……。今なのじゃ……。わらわとしたことが基本を忘れてしまったのじゃ……」


 荒い呼吸のままにルナ=マフィーエが片膝をつく恰好となる。それでも途切れ途切れの声でヤマドー=サルトルに追撃を(おこな)えと指示を出す。ヤマドー=サルトルは彼女の方を見ずに、戦斧(バトル・アクス)を振り上げながら、ヴァンパイア・ナイトへと肉薄する。


 だが、その時であった。延焼中であったヴァンパイア・ナイトの左腕から急に炎が掻き消える。ヤマドー=サルトルはそれを見て、ギョッとした表情へと変わってしまう。


水の全回帰オータ・オールリターン発動ナノジャ……」


 なんと、今まで静かにしていたヴァンパイア・プリーストがいつの間にやら銀色の聖書(シルバー・バイブル)を開き、回復魔法を発動させていたのである。しかも、通常の回復魔法では無く、対象者の生命力を完全に回復する『水の全回帰オータ・オールリターン』だったのだ。


 ルナ=マフィーエがその身に宿る全気合を込めた炎の柱(ファー・ピラー)を実質的に無効化してしまったのだ、ヴァンパイア・プリーストは。ボロボロの汚い色に染まった法衣に身を包んだ奴は確かにほくそ笑んでいた。


(チッ。要らぬ世話をシテクレル)


 ヴァンパイア・ナイトがプリーストに余計な手出しをされたことに不快感を覚えていた。好敵手にまみえたことで、少しばかり気分が高揚していたのである。そして、左腕が使えぬのなら、右手に持つ幅広の長剣(ロング・ソード)のみで、眼の前に接近してくる黒い全身鎧(フルプレート・メイル)に身を包んだ戦士と対峙しようとしていたのだ。


 だが、ヴァンパイア・ナイトはせっかく自分の左腕を治療してもらったので、治ったばかりの左手に持つ楕円形の盾で、戦士の攻撃を捌き、右手の長剣(ロング・ソード)でカウンター気味に突き出し、その身を鎧ごと貫いてやろうと考えた。


「うおおおお!」


 ヴァンパイア・ナイトと対峙する黒い戦士が上から下へと黒鉄(クロガネ)製の戦斧(バトル・アクス)を振り下ろしてくる。この攻撃をヴァンパイア・ナイトは楕円形の盾を斜めに構えて、下方向へと受け流そうとする。黒鉄(クロガネ)製の戦斧(バトル・アクス)と楕円形の盾が同時にガイイイン! と金属と金属がぶつかりあう音を玄室に響き渡らせる。


「甘イ。ソレガシを舐めたこと、後悔スルガァ!?」


 ヴァンパイア・ナイトは確かに左手に持つ楕円形の盾で、黒い戦士の攻撃を受け流したと感じた。だが、いきなり自分の心に悪寒が去来し、カウンターの『受け流して刺す(パリィ・トゥ・ダガー)』を発動することを戸惑ったのであった。


 彼の悪寒が彼の身を縮こまらせたことが功を奏す。なんと、眼の前の黒い戦士は態勢を崩しながらも、続けて二撃目を繰り出してきたのである。下方から突き上げるように戦斧(バトル・アクス)が自分目がけて振るわれる。ヴァンパイア・ナイトは2撃目を盾で防ぎきる。だが、まともに衝撃を喰らったために、盾を持ったまま左腕が跳ね上げられる。


ヤマドー=サルトルの2回連続の攻撃が終わり、ここで彼の攻撃は一旦終了するかのように見えた。だが、ヤマドー=サルトルは、ふっ!! と力強く息を吐き、残心を(おこな)う。そして、ヴァンパイア・ナイトが態勢を整え終わる前に、彼は急いで息を吸い込んで、こう叫ぶ。


「まだです! 『五連撃クインタプル・スラッシュ・アクス』です!!」


 ヤマドー=サルトルは戦斧(バトル・アクス)を蹴り飛ばし、下から上へかち上げた後、上下の2連撃、さらに斜め上からの1撃と最後に横薙ぎ、そしてトドメとなる1撃を織り交ぜる。合わせて5連続の攻撃をヴァンパイア・ナイトへと叩きこむ。


 1撃目と2撃目はヴァンパイア・ナイトが左手に持つ楕円形の盾で防がれてしまったが、続く3撃目でヴァンパイア・ナイトがついに盾を手放すこととなる。そして4撃目を叩きこむと、奴は右手に持つ幅広の長剣(ロング・ソード)で防ごうとする。だが、戦斧(バトル・アクス)長剣(ロング・ソード)では強度がまるで違う。


 ヴァンパイア・ナイトは横薙ぎの4撃目で長剣(ロング・ソード)を叩き折られ、最後の5撃目をまともに胸部へと叩きこまれる結果となるのであった。

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