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第三話 古代恐竜!カッシーを探せ その3


「ううううううう。お腹が……」

 その後、ゆにこは顔を真っ青にして腹を押さえていた。

「だからやめておけって言ったのに」

「違うのこれはきっとマーヤちゃんのせいじゃないわ。だから責めないで」

 健気にもマーヤを庇うゆにこだったが、当の本人は「蝶々だー」と元気そうにはしゃいでいる。

「でも早くここから出ないと、色々とわたし限界……」

「わかったよ。早くここから出よう」

 ある意味自業自得と言えなくもないが、ゆにこがバーストする姿なんて見ていられない。そんなことになったら地獄絵図だ。今すぐどうにかしてこの迷いの森を抜け出す方法を考えなくちゃいけないだろう。

「そうだマーヤ! 妄想を使ってここから脱出するんだ。何か大きな動物を呼び出して、それに乗っかって出口を探すんだよ」

「でもご主人様。大きな妄想を出すには想像力が必要だぞ。何か参考にできるものがないと変なのを呼び出しちゃうこともあるんだぞー」

「それは困るな」

 またチワワドラゴンみたいのが出てきても困る。とはいえ何か妄想の資料になるようなものは持っていない……そう思っていた俺はふと、先ほど藪坂先輩に渡された週刊誌を取り出した。

「カッシーを呼び出そう」

「え? カッシーを? どうする気なの、右城くん」

「ここにある『カッシー想像図』を使って頭に描くんだ。ちょっと待ってろ、精神を集中するから」

 俺は目を瞑り妄想の世界にダイブする。

 太古の時代に滅びた首長竜。その全長は十メートルにも及び、ドシンドシンと巨体を揺らして森の中を彷徨っている。そんな光景を思い描き「今だ!」とマーヤに合図を出した。

「いふたふ・や~・しむしむ!」

 ズバズバズバズバッ! と俺の頭が切り刻まれた。

 すると巨大な影がぬうっと飛び出し、その全貌を現した。

「やった。成功だ!」

 だが生み出されたのはドロドロの泥細工でしかなく、すぐにぐにゃりと崩れてしまった。

「……なにしてるの右城くん」

「い、いやちょっと失敗しちゃって。たはは。おい、マーヤ。なんでちゃんと妄想が具現化できないんだよ!」

「し、知らないぞ。マーヤのせいじゃないもん! ご主人様がちゃんとイメージできてないからこうなるんだぞ」

「そんなバカな。俺はいつも通り妄想してたはずだ」

 いやしかし、最近は妄想をしていなかったことを俺は自覚する。そうだ、写真部に入ってみんなと遊ぶようになってから妄想の世界に浸ることはなくなった。

 ――だからか? だから妄想力が落ちたのか?

 リアルが充実していたものだから妄想の仕方を忘れてしまったのだろうか。

「もしそうなら、仕方ないな。でもどうしたら――うわあっ!」

 俺が腕を組んで考えていると、ベロリと何か冷たいものが俺の顔全体に当たった。なんだかぬるぬるとしていて俺の顔はびしょ濡れになる。

「な、なんだよ気持ち悪い!」

 必死に腕で顔を拭っていると、

「右城くん、うしろうしろ!」

「なんで俺の名前を連呼するんだ?」

「違うよ、うしろ! 背後だよ右城くん!」

 ゆにこが青い顔をさらに青くしているのを見てただならぬ雰囲気を感じた俺は、咄嗟に振り変える。

 そこにはカッシーがいた。

 首の長い恐竜が、じろりと俺を睨んでいる。

 まさか妄想の具現化はやっぱり成功していたのか?

 そう思ったがすぐ際には先ほどの失敗作がぐずぐずに溶けているのが見える。ということは、こいつは妄想から出てきたものじゃない。

「ほ、本物のカッシー?」

「プオ―――――――――――ン!」

 びりびりと鳴き声だけで木々が揺れ、葉が落ちてくる。物凄い迫力だ。

「すごい、カッシーって実在したんだね!」

「そんなこと言ってる場合じゃないって。食われないうちに逃げよう!」

「大丈夫よ、この子多分草食類だもの」

「すごいぞ! 太くてかたくて立派だぞ!」

 女性陣は本物のカッシーの登場にテンションを上げていた。よくもまあ、本物の恐竜の前ではしゃげるものだ。

 とはいえ確かにカッシーは害がなさそうで、人懐っこく目を細めながら首を下げ、ペロペロとゆにこやマーヤの頬を舐めている。そんな姿を見ていると確かに可愛らしいと思えてくる。

「クウン。クウン」

「なんだろう、この子なんだか元気がないみたいだぞ」

 カッシーの頭を撫でながらマーヤが言った。確かになんだか弱弱しい印象を受ける。現代まで生き残った古代生物にしてはタフに見えない。

「ピイピイピイイピイ」

「ふんふん。なになに」

「マーヤ、お前恐竜と会話できるのかよ」

 やっぱり魔神だけあってそういう能力には長けているのだと感心してしまう。

「ご主人様、この子もうすぐ絶滅しちゃうんだって」

「はあ? そりゃいつ絶滅してもおかしくないだろ」

「そうじゃなくて、昔は何匹も住んでたんだけど、もう自分一匹になっちゃったんだって。それで寂しくて死んじゃいそうなんだって」

「か、可哀相!」

 マーヤの翻訳を聞き、ゆにこがダーと涙を流し始めた。

「ずっと一人ぼっちだったなんて可哀相に。寂しかったんでしょうね」

 ぎゅうっとカッシーの頭をゆにこは抱きしめる。自分が腹痛で限界なのに、恐竜のために泣いてやれるなんて彼女はやっぱり優しい子だ。

「そうだ。だったらマーヤ。俺に考えがある」

 俺がマーヤに提案すると、名案だとばかりに手を打った。

「さすがご主人様だね! よーし行くぞ! いふたふ・や~・しむしむ~~~~!」

 マーヤは曲刀をくるくると回転させ、思い切りカッシーの頭に突き刺した。

「クオオオオオオオオオオオオオオオン!」

 殺されたと思ったカッシーは絶叫を上げたが、すぐに頭が割れ、そこからある物が飛び出してきたことに気が付いた。

「ピイピイピイ」

 それはもう一匹のカッシーである。

 マーヤはカッシーの妄想であるメスのカッシーを頭から呼び出したのだ。

「ピー! ピー!」

 二匹の首長竜はゴロゴロと喉を鳴らしながらじゃれ合い始め、やがて二匹の瞳にハートマークが浮かんでいるように見えた。

 二匹のカッシーは見つめ合い、どちらともなく歩を合わせ、森の奥へと消えていく。

「よかったねあの子、もう一人ぼっちじゃなくて」

「来年にはカッシーの子供が見れそうだな」

 この森に恐竜が溢れることになったら大騒ぎだろう。人間たちに見つからないように、静かに暮らしてほしいと俺は思った。

「あっ。主人様。頭の後ろに何か穴が開いてるぞ」

「え?」と俺は自分の後頭部に触れる。すると穴が開いているらしく、指がずぶずぶと沈んでいく。「なんだこれ、気持ちわる!」

「それあれじゃないかしら、さっきマーヤちゃんの刀が頭に刺さったよね?」

「ああ。あの時の……」

 そこでふと、俺はあの時に何か妄想が俺の後頭部から飛び出たのではないかと考える。そういえば俺があの時妄想していたのは――

「なあ、マーヤ。俺の妄想を消す呪文を唱えてくれないか?」

「えー。妄想なんか何も出てないぞ?」

「いいから。頼むよ」

「わかったぞ」マーヤは曲刀を天に掲げて唱える。「あぐらく・や~・しむしむ~~~~~~~~~~~~~!」

 直後、眩い光が俺の視界を覆った。

 まるで森全体が光っているかのようである。やがて光はキラキラと粒子状に変化し、空へ向かって上昇したかと思うと、俺の頭の穴めがけて収束していく。

「なにこれ、眩しい!」

「大丈夫だ。もう収まる」

 光がすべて俺の頭の中に帰ってきた頃には、先ほどまでの広大な迷いの森は消滅し、数メートル先に初めにあった『立入禁止』の看板が目に入る。

「出口だー! マーヤたちは迷いの森から脱出できたんだー!」

「ねえ右城くん。さっきのはなんだったの?」

「ごめん。あの迷いの森は俺の妄想が作り出したものだったんだ」

 マーヤの曲刀が頭に刺さったあの時、俺は『ゆにことずっとこの森にいたい』という妄想を頭に浮かべていた。そのせいで俺の頭から迷いの森が生み出されてしまったのだろう。

「そんな。でもどうしてあんな森を妄想したの?」

「それは」どう説明したらいいかわからない。本当のことを言っていいんだろうか。いや、言おう。俺はずっとゆにこといたかったんだって、本当のことを伝えよう。そうしなくちゃ前へ進めない。

「それはゆにこ、お前と――」

「うっ…………ちょ、ちょっとごめんなさい右城くん……ちょっとあれに」

 と言ってゆにこは猛ダッシュで公衆トイレへと走り出した。

 ああ忘れていた。ゆにこは妄想おにぎりを食べて腹を下していたんだった。

 はあ。もうムードも何もないな。

「うおおおおお山田隊員! しっかりしろ! 出口はもうすぐだぞおおお!」

「ダメです藪坂隊長! 私を置いて逃げてくださーい!」

 ドタバタと森から藪坂先輩と山田さんが飛び出してきた。

「ああ、先輩たちも迷ってたんですね」

「おおう根賀倉二年生ではないか! ということは、我々は見事帰還したということであるな! まさかあんな怪物に襲われることになろうとは夢にも見ていなかった!」

「え? 先輩たちもカッシーに会ったんですか? そういえば俺たちは結局カッシーの姿をカメラに収めなかったな」

 驚いてそれどころではなかったし、二十万よりもカッシーが人間の目に触れないようにする方が大事だと思う。

「そうだ。あたしはついにカッシーを写真に撮ったのだ! これで賞金二十万はすべてあたしのものだー! わっはっは!」

「撮ったのは私のポラロイドですよ~~~~~」

 山田さんは一枚の写真を取り出して俺に見せた。

「ああ、これは」

 そこに映っていたのは粘土細工と化した俺の妄想で出来たカッシーだった。これじゃあ玩具か何かにしか見えない。

「先輩、これ俺が作り出した偽物ですから、多分賞はとれないと思いますよ」

「な、何だと――――――!」

 今までの苦労が水の泡だと、藪坂先輩と山田さんはひっくり返っていた。

 俺は森の奥を見つめ、本物のカッシーが幸せに暮らせるように祈った。


第三話はこれで終わりです

第四話に続きます。

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