第四話 真夏の鍋パーティ!ポロリもあるよ! その2
藪坂先輩が一人暮らしをしている『花水荘』は歩いて十分のところにあった。
昭和の面影が残る町並みの中でもより一層、その建物は風情があった。
いや、風情というか年季を感じるというか年代を感じるというのか。ともかく、戦前から建っているのだろう、失礼を承知で言うのなら「オンボロ」である。
まさに骨董的で、木材建築の二階建ての下宿屋である。あちこちの柱や板張りの壁は腐っており、看板は傾いている。
庭の雑草は伸びっぱなしで、言われなければ廃屋だと思っただろう。
こんなところに花の女子高生が暮らしているとは信じ難かった。
「でも、ある意味あの人らしいな」
豪邸に暮らしているとかよりかは親しみが持てる。俺たちは百歳ぐらいのお婆さんである大家さんに挨拶をし、中へと入れて貰った。
下宿内はろくに蛍光灯がついておらず、随分と薄暗い。まだ日が高いのが幸いだ。
「すっごーい! お化け屋敷みたいだぞー! わははは幽霊が出たらどうしよー。友達になれるかなー」
マーヤはみんなが言いたくても言わないようなことをはっきりと言いやがる。
「バカ野郎。失礼なこと言うもんじゃない」
「はっはっは。まあ本当のことであるからな、仕方あるまい」
藪坂先輩が階段から降りてきて、俺たちを出迎えた。しかし彼女の服装はいつもの甚平姿ではなく、なぜかパジャマだった。
しかもピンクを基調としたイチゴ柄である。
普段とのギャップのせいで思わず萌えてしまう。こうして女の子っぽい格好をしていると、かなりの美人だ。
「わあ、可愛いですね部長」
「うむ。ありがとう。実を言うとね、部屋着をパジャマしか持っていないのだよ。あたしは不必要なものは持たない主義でね」
「服はどう考えてもいるものでしょうよ」
「はっはっは。面白い冗談を言うな」
「いや、冗談ではなく」
この人の常識のなさは突っ込む気さえ起きない。俺も漫画やゲームばかり買って服に金をかけたことはないが、それにしたって甚平と制服とパジャマしかないというのはさすがに論外である。
「まあまあ。ともかく上にきたまえ。我が城を案内してやろう」
「はあ。じゃあお邪魔します」
「うむ。苦しうない。遠慮せずあがるがよい」
藪坂先輩に促され、俺たちは彼女の部屋に入った。
四畳半の部屋ではあるが、私物がほとんどおかれていないせいかやけに殺風景で狭さをあまり感じない。けれどあちこち壁が剥げていたりと、やっぱり女子高生が暮らすには無理がある部屋だ。
よっぽど藪坂先輩はタフなのか図太いのか。
俺たちは真ん中に置かれた小さなテーブルを囲った。ちょうど四人がそれぞれ各側に座る格好である。マーヤだけが座るところがなく、ゆにこが「マーヤちゃん。わたしの膝においで。一緒に食べよう?」と呼びかけるも、
「いーやー! マーヤはご主人様と食べるぞー!」
と俺の膝に潜り込んできた。
小さな子供ならともかく、マーヤぐらいの大きな子が膝に入ってこられると色々とドギマギしてしまう。体が密着し、体温が伝わってくる。
「右城くん、あとで覚えておいてね」
不穏なオーラを垂れ流しながらゆにこが睨んできた。勘弁してくれ。
しかしこの四畳半に五人もいるとさすがに狭いし息苦しい。せっかく招いて貰ったのだから文句は言えないが。
「さて、ぼちぼち夕飯の時間だな。ではさっそく鍋の用意でもしようか」
藪坂先輩は用意したコンロと土鍋をテーブルの上に置き、俺たちも準備を始めたのだった。