第9話 成長
昨日までの俺を説明しよう。
キャンプしてたら、そこがダンジョンで、餌付けした狐が魔物で、スキルが目覚めたお陰なのか、せいなのか、どちらにしても冒険者になり、無理矢理やらされた一度目のダンジョン探索で仕事をクビになり、これまた無理矢理やらされた二度目のダンジョン探索で借金を負った。そしてダンジョン探索をやらざるを得なくなった。
うん、嵌められてるな。
「はぁ、なんでこうなったんだ」
「どうしましたか?」
忘れていたが、ギルドの方からお詫びとして凛々花とのパーティ契約を結ばされた。当然、凛々花が加害者であるという点を忘れたわけでないが……まあ彼女が持つスキルも踏まえると、不本意ながらプラスな契約だ。
「じゃあ行くか」
「はい」
俺と凛々花は腰に剣を携え、ゴン太と共にダンジョンへと突入した。
今回突入したダンジョンは、東京都にある通称“池袋ダンジョン”。池袋にあるからそう呼ばれているが、本来の名前は【アニメックスダンジョン】と言うらしい。
「アニメックスの建物が、そのままダンジョンになったから【アニメックスダンジョン】……ネーミングセンスが」
「悟さん、貴方も人のことは言えないですよ」
凜々花が何か言っているが、聞こえないな。
なんたって俺はネーミングセンスがピカイチなんだからな。
「来ますよ!」
「ゴン太、頼むぞ」
「コン!」
俺も剣を構えつつ、メイン火力であるゴン太へのお願いも忘れずにする。俺の剣も、凜々花の剣も初心者用の安い剣だから、普通の動物よりも頑丈な魔物には、大したダメージを与えられないだろうからな。
ちなみに【アニメックスダンジョン】は、建物がダンジョンに変化したものではあるが、建物内はダンジョンの異空間へと変わっているため、洞窟型のダンジョンだ。
ただ吸収したであろうアニメグッズたちの影響を受け、ドファンタジーな魔物が多いらしい。
まあダンジョンに出て来る魔物なんて、ファンタジーの住人ばかりだがな。近付いて来ているゴブリンのように、な。
「よし、ゴン太たの――いや、俺がやる」
ダンジョンから逃げられなくなった今、継戦能力が分かりにくいゴン太に頼り切るのではなく、ゴン太の魔力が残っている今のうちに俺の戦い方を確かめる必要がある。
そう思い込ませて、震える身体を押さえる。
「ふぅ……はぁ……」
深呼吸して、冷静さを保つ。
これまでのトラウマに打ち勝ち、ゴブリンを倒すことさえできれば、俺の未来も切り開けるはずだ。
「もし危なくなったら、ゴン太の判断で助けに入って来てくれ」
「コン!」
ゴン太は俺のことを大事に思ってくれているが、過保護ではない。
俺が戦いたいと言えば、しっかりその思いを汲み取ってくれる。
「よし……頑張ろう」
社畜時代のルーティーンだ。
「頑張ろう」と言葉に出して、自分に言い聞かせることによって、身体も頭も勝手に頑張ってくれる。
「グギャァァ!!」
「うおぉぉぉ!!」
ゴブリンが吠えたのに対し、俺も吠え返す。
大の大人が吠えるなど、ダサいと言われるかもしれない。だが戦う上で、己を鼓舞するのは大事だ。それはデスクワークだろうと戦場での格闘だろうと変わりはしないだろう。
「行くぞ」
俺は剣を構えながら駆け出す。
安く、密度が低いとはいえ鉄の塊。俺のようなおっさんが持って走るには重過ぎて、脚を前に出す度、身体が左右に揺れる。
そんな剣を振り下ろすことすらままならない状況で、ゴブリンと接敵した。
「グギャ!!」
「くっ――」
ゴブリンが振り下ろしてきた棍棒を、何とか受け止めることができた。
だが想像以上に膂力が強い!
「うおぉぉ!!」
俺は吠えながら、押し返そうとする。
すると不思議と力が湧いて来た。
俺にはこれが何なのか分かる。ゴン太が注ぎ込んでくれた魔力の残滓、つまり魔物由来の魔力だ。
「はぁぁぁぁ!!!」
全身の筋肉が膨れ上がり、これまでの俺からは想像できぬほどに強力な膂力で押し返した。
ゴブリンの棍棒を弾き、そのまま頭部をかち割った。
「はあはあ……勝てた」
キャパ以上の力を出した疲労感からか、ゴブリンに勝利できた安堵感からか、全身の力が抜けて座り込んでしまう。
戦場たるダンジョンで座り込んでしまうのはダメなんだろうけど、今だけは許して欲しいな。
「コーン!!」
ゴン太が嬉しそうに駆け寄って来てくれる。
「ゴン太のお陰で勝てたよ」
「こーん」
俺は擦り寄せて来る頭を撫でつつ、疲労で動かなくなった身体を休める。少し離れたところに立つ凜々花は、こちらを羨ましそうに見ていた。
「凜々花もありがとな」
すると満面の笑みになった凜々花も駆け寄って来る。
まあなんだ……ダンジョンも良い物だな。
最終回のようなラストですが、初めてゴブリンを倒しただけです。
なのでまだまだ続きます。
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