第54話 凍結
「行こう」
「ギルドにですか?」
「違う、スタンピードが起きたダンジョンに」
「わ、私もですか?」
「そう、ゴン太くんたちと一緒に居たいから」
「拒否はできますか?」
「??? ないよ」
「ですよね」
最悪だ。
ギルドに行ってSランク冒険者を待つつもりが、Sランク冒険者と共にスタンピードが発生しているダンジョンの鎮圧に行くことになってしまった。
「じゃあ行こうか」
「……はい」
変に否定して、怒らせてしまえば俺の命は簡単に潰えてしまう。
だから俺には首肯することしか、選択肢がなかった。
「まずは……【鷲ノ木遺跡ダンジョン】に行こうか」
「……はい」
【鷲ノ木遺跡ダンジョン】は十五階層に渡る中級者向けのダンジョンだ。当然、俺では挑むことすら憚られる難易度で、それがスタンピード中ともなれば、近付くことすら拒否したい。
「でも遠いですよね。道中大量の魔物が居ると思いますし」
「大丈夫だよ。“零冷”」
あの時映像で見た魔法だ。
神に御業と言われても否定できない神業。掌を向けた先、数キロにわたって銀世界が広がっている。積もっていた雪も凍り付き、地上を跋扈していた魔物たちは例外なく魔石へと変わっていた。
「――」
言葉が出ない。
映像で見ていたはずなのに、目の前にしたらあまりに非現実的過ぎて、頭が理解しようとしない。
これが【日本最強の冒険者】。
魔法に巻き込まれた魔物の中には、最初に見たワイバーンクラスの魔物も居たはずだ。それなのに魔物はもれなく魔石へと変わっている。圧倒的な火力による蹂躙に対し、相手の強さは関係ないのか。
「行くよ」
「……はい」
先刻から「……はい」しか言っていない気がするな。
まあ変に目立って日本最強からの注目を受けるのは、避けるべきだから、ちょうどいいか。
「だいぶ魔物がたむろしていますね」
「関係ないよ」
西園寺は掌をダンジョンの方へと向ける。それだけで反射的に身体が震えてしまう。
しかしどうやってダンジョンをクリアするつもりだ? スキルで魔物を倒せたとしても、ボス部屋までは相当な距離があるはずだ。時間を掛ければ、余裕で突破できるだろうが、今は時間を掛けている暇はないはずだ。
そんな思考を巡らせている間に、ダンジョン前を陣取っていた魔物たちは魔石へと変わっていた。
「入るよ」
「は、はい」
西園寺の背中を追って、ダンジョンの中に入る。
その【鷲ノ木遺跡ダンジョン】の中は、その名の通り遺跡を模したものだった。そして出てくる魔物も、石積みの遺跡に似合ったもの魔物だ。
「ゴーレム」
俺の【長谷部】ではダメージを与えることすらできない強敵だ。
だが目の前にいる西園寺は、臆することなく掌を魔物へと向けている。
「“銀世界”」
西園寺が使用した魔法は、先刻とは違う技だった。
ゴーレムが凍結する。否、ゴーレムだけでなくダンジョンそのものが凍結していた。彼女曰く一階層に居る魔物は当然のこと、十五階層まで全ての魔物が、ボス部屋に居る魔物も含めて全てが凍結したらしい。
「次のダンジョンに行くよ」
「――」
あまりに規格外の力過ぎて、口が開かない。
いや、普通に寒すぎて口が開かないだけなのかもしれないな。
「次は……【洞爺湖ダンジョン】かな?」
「【洞爺湖ダンジョン】ですか!?」
【洞爺湖ダンジョン】。
洞爺湖の中島に生まれたダンジョンで、その大きさは驚異の六十階層。北海道にあるダンジョンの中でもトップクラスの大きさだ。
「大丈夫。君たちのことは私が守るよ」
カッコいい。と不覚にも思ってしまったが、よくよく考えてみると、俺たちは連れ回されているわけで、最悪なマッチポンプを仕組んでいるに過ぎない。
「ゴン太たちは大丈夫か?」
「コン!」
「ポン!」
「ニャン!」
「カメ!」
なんかゴン太たちは元気だな。
「――」
「どうしましたか?」
「……いや、なんでもない」
急に西園寺が一か所を見つめていた。
やっぱりこの人は不思議ちゃんなのか?
――ダンジョン嫌悪派side
「発見しました、窪田悟とその従魔です」
建物の屋根に伏せ、双眼鏡を構えている男が電話先の人間に見たことを伝える。
『援軍が到着次第、襲撃しろ』
「ただ、その冒険者と共に行動しているのが、西園寺麗華です」
電話の先から息を呑む音が聞こえて来た。
『西園寺麗華……“日本最強”だと……では私が行く』
無線の先、【十聖】が一人【呂布】。
座っていた椅子が倒れる音、マントを羽織る音が順番に聞こえたのを最後に、【呂布】と繋がっていた電話は切れた。
「【呂布】さんが動く――っ!?」
男は双眼鏡を落とし、音を立ててしまう。
その音、コツンっといったとても小さな音。しかし数キロ離れているにも拘らず、西園寺が男のことを見ていた。確実に目が合っている。
「――」
既に男の姿はない。
あるのは、とても精巧な氷像だけだ。
西園寺麗華無双でした。
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