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おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

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181/303

第181話 包まれる

 江梨子の本気は、一瞬にしてビルを塵にした。

 生き残ったのは、宙へと放り出された俺や従魔たち、そして破壊を行った張本人である江梨子だけだ。他の生命はビルだったものと同じように、塵へと変えられた。


 足場を失った生物は、重力に従って落下するしかない。翼を持っていれば、何とかなったかもしれないが、こちらに鳥類はいない。重力という世界の摂理には、到底勝てっこないのだ。


 だがこちらには自然を操る江梨子が居る。自然には自然の力でしか対抗することはできない。


 とまあ色々語ってはみたが、スキルの発生と共に、この思想は後塵を拝すこととなった。だって【浮遊】のようなスキルがあれば、ヒトであっても空を飛べるのだからな。


「本当にいなかったな」


「初めから麗華が居ないことは分かっていたが、隠されている可能性を考慮して、ビルを上っただけだから」


「流石、江梨子だな」


「……警戒しておけ、悟。空気が変わった。居るんだろ、ヴェーヌ」


「流石と褒めておきましょう。まあ私の姿を見つけることは、叶わなかったみたいですけど」


 以前のように声の発生源は特定できない。

 そして霧が俺たちのことを包み込み、視界が極端に悪くなっている。さらにこちらの声も反響のせいか、至る所から聞こえて来るようになってしまい、ヴェーヌの居場所どころか江梨子が立つ場所すらも分からなくなってしまった。


 反射的に一歩後退してしまう。その安易な行動が、さらに状況を悪化させる。たぬ吉たちの姿も消えてしまった。鳴き声は聞こえ、【テイム】スキルの繋がりは近くに感じるため、遠く離れたわけではないのだろうが、何処に居るのかは分からない。


 ゴン太を奪われた時のような、心にぽっかりと穴が空いたような、最悪の気分だ。

 そんな状況でも剣は構えなければならない。圧倒的孤独感。こんな状況はいつぶりだ? そもそも俺は従魔が一人もいない時に、ダンジョンへと潜ったことがないかもしれない。


 そもそも敵が誰を狙っているのか、どんな力を持っているのか……幻影を見させる力しか分かっていない。そんな状況で俺は生き延びられるのか?


「……」


 微かな呼吸音すら漏らしたくない。自分の音が反響して、空間を把握することが難しくなってしまう。耳に入れるのは敵の情報だけで十分だ。


 ――カツン


 足音が鳴った。反響のせいで前後左右、上下全てから音が聞こえて来る。だが反響ということは、発生源の音が一番大きいはずだ。耳に全神経を注ぐ。


 ……発生源を断定する前に、足音は完全に消え切ってしまった。何の情報を得ることもできず、再びふりだしへと戻ってしまう。


「……っ!?」


 頬が斬り裂かれた。そんな感覚を得たため、手で触れてみる。すると指先にはべったりと血が付いていた。


 何にやられたんだ?


 弾丸ではない。サイレンサーを付ければ、ある程度の消音が可能だろうが、ゼロにすることは不可能。それも静寂が支配するこの場においては、微量の音でさえ目立つ音になるはずだ。

 

 剣などの近接武器でないことも確かだ。いくら気配を殺して接近しようと、一瞬で斬りつけて即座に離れるなど、神にも等しい御業だ。数多のスキルを重ね、そして賭けに出なければ、この小さな傷を付けることはできない。


 一番可能性が高いのは、飛ばしても音が鳴らない程に小さな暗器だ。これならば、一切の音を鳴らさずに傷を付けたことにも頷ける。

 だが、この推論には一つの問題があった。それは毒が塗られている可能性が高いということだ。


 何が問題かって? それは俺が対毒スキルや治療系のスキル、治すためのポーションを持っていないということだ。つまり毒が塗られていた場合、俺は抵抗することなく敗北してしまう。


「うっ――」


 胸が痛い。恋などではない。針に突き刺されるような、内臓がグチャグチャにされているような、俺の長くも短くもない人生において経験したことのない痛みだ。

 あまりの激痛に、自然と手の中から剣が落ちてしまう。


――カラン


 霧に包まれてから鳴った音の中で、一番大きな音が鳴ってしまった。

 周囲の空気が変わる。これは雰囲気の話ではない。もっと詳しく表現するとしたら、『大気が動いた』とするべきだろう。


 剣が落ちた音を頼りに、江梨子が動き出した。吹き荒れる突風は、荒々しさを保ちながら、俺の身体を優しく包み込む。


 しかしながら確実に突風は吹き荒れているというのに、霧はそこに居るのが当たり前と言わんばかりに滞留している。


 意識が遠のく。毒が全身に回ったのだろう。こうなっては俺にできることはない。痙攣か、身体が震えて言うことを聞いてくれなかった。


「――」


 近付いて来た江梨子の声が聞こえて来るが、何を話しているのか理解できない。いや、理解できていないのか、そもそもまともに音を聞き取れていないのか……まあいいか。どうであっても、もう遅いだろう。


 優しい暖かさ。それだけは感じることができた。



現実か、それとも全てが幻覚か


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