第15話 ゴブリンキング
「うおぉぉぉ!!!」
俺は剣先を地面に触れるギリギリの位置に固定しながら、剣持ちゴブリンの下へと駆ける。
ゴブリンは受け身でいるようで、ただ剣を持ち上げて、俺の攻撃に対してカウンターを放ってくるであろう立ち居振る舞いをしていた。
二階層に出現するゴブリンと同じ膂力であれば、正面からでも打ち勝てるが、もし膂力が強くなっていたら……まあここまで来て、退く選択は取れないか。
一瞬の迷いが生じつつ、そのまま駆け抜ける。勢い任せで剣を振り上げ、剣を構えたゴブリンへと力任せに振り下ろす。
「押し切れない――」
防御の剣ごと頭蓋骨を潰すつもりで剣を振り下ろしたが、易々受け止められてしまった。ただ良かった点と言えば、弾き飛ばせるほどの膂力の差はなかったことか。
「うおぉぉぉ!!!!」
雄叫びをあげながら、力いっぱい押し込む。
ゴブリンの表情には焦りと冷や汗が見え、トドメを刺さんと力をさらに籠める。
「はぁぁぁ!!!」
俺の剣がゴブリンの剣ごと頭蓋骨へと押し込み、醜悪な見た目は魔石へと変わった。
「はぁはぁ、剣を持っているだけあって、膂力も上がっていた……」
たった一体のゴブリンと戦っただけで、ここまで息を切らしてしまうのか……ここから先、複数体のゴブリンと接敵した場合を考えると、だいぶ厳しいな。
だが二階層を通って一階層へと帰還できるとは思えないし、やっぱりなんとか三階層を抜けて、ゴン太の力を借りてボスを討伐するしか、生還の道はないか。
「よし、先へと進もう」
「悟さんは大丈夫なんですか?」
「ああ、体力を回復させたい気持ちもあるが、三階層で休める程の胆力はまだ持ち合わせていない」
「できるだけ接敵を減らせるように頑張ります」
「ああ、頼む」
凜々花の力に頼りながら、必要最低限の接敵でダンジョンを進めた。
そして三階層へ来てから剣持ちゴブリンとの接敵四回を経て、ようやくダンジョンボスが待ち構えるボス部屋の前へと来れた。
「はぁはぁ……ここで勝てれば、帰れる」
「帰りましょう」
「コン!」
流石に同格のゴブリンと四回も戦えば、体力の底は見えている。
ボス部屋の前で休むという選択もあるが、俺も凜々花も精神的にヤバくなってきているから、直ぐにでも挑むのが一番最適だと思う。
「じゃあ開けるよ」
「はい」
「コン!」
広いな。
扉を開いて思った感想は、そんな日常的なものだった。
三メートルほどの扉を押した先に広がるのは、体育館ほどの開けた空間。そして中央に鎮座している緑色の巨大な怪物。
ゴブリンキング。
このダンジョンのボスであり、ゴブリンたちを纏め上げる統率者。
三メートルほどの巨体、筋骨隆々な肉体、その手に持つ巨大な大剣、そんな怪物が発する殺気が俺たちを襲う。
「……」
どうしてだろう?
そんな常人では耐えられないであろう殺気を全身で浴びても、一切の恐怖を感じない。それどころか余裕で勝てる。そんな感想さえ抱いていた。
「行こうか」
「……」
「コン!」
凜々花は身体を震わせてビビっている。
きっと凜々花のが正しい反応なんだろう。ここまで戦闘で、俺の頭のネジは外れてしまったのか、それともゴン太の安心感がそこまで強いのか、まあどちらにしても今の状況ではありがたい。
「凜々花、下がっておいてくれ」
「……はい」
「行こう、ゴン太」
「コン!」
俺が前に出れば、凜々花にヘイトが向くことはないはずだ。
……よし、頑張ろう。
「行くよゴン太」
「コン!」
俺はゴン太と共に駆け出す。
五メートルほど走ると、ゴブリンキングは顔をあげてこちらを見てきた。その顔はゴブリンと変わらず醜悪で、俺たちのことを格下と思ってニヤリと笑っている表情は、まさに怪物だ。
空いた距離が残り数メートルのところまで近付こうと、ゴブリンキングは一切の動きを見せない。完全に舐められているな。
だが俺たちからすれば好都合だ。舐めた相手ほど、ジャイアントキリングを起こしやすいはずだ。
「ゴン太、火の玉だ!」
「コーン!」
ゴン太の火の玉と共に、ゴブリンキングへと斬りかかる。
「グギャ」
ゴブリンキングがノーモーションで剣を振り抜いてきた。
その瞬間、俺の身体は宙に浮き、地面に転がされた。展開されていた火の玉は掻き消され、ゴン太も吹き飛ばされている。
「ただ剣を振るっただけで、ここまで威力……」
これまでのゴブリンとは比較にならないほどの膂力、そして自分は強いという圧倒的自信……舐めているとかじゃなかった。本当に小手先では、どうにもできないほどの力の差があるのか。
「まあ最後まで戦うしかないんだけどな」
そんな絶望的状況に気付いてもなお、俺の中には何処か余裕があった。
ボスがいる階層の魔物とボスとでは、隔絶した実力差があります。
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