第13話 二階層
目が覚めた。
眼前に広がるのは見知った洞窟の天井……ではなく大きな双丘。頭の下には柔らかい何かが広がっていることから推測するに、俺は膝枕をされているらしい。
ひざまくら……ッ!!
「はぁはぁ」
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ」
眠りから覚醒した頭が状況を理解した瞬間、脱兎の如き速さで凜々花の膝から飛び退き、バクバク鳴っている心臓を悟らせないために、顔に鉄仮面を張り付ける。
「良かったぁ」
「俺が寝ている間に何かあったか?」
「いえ。二回だけ魔物が近付いて来ましたけど、ゴン太君が倒してくれました」
「ありがとな、ゴン太」
「コン!!」
俺の睡眠はゴン太が守ってくれていたらしい。
拳を握って身体に異常はないか探ってみたが、表立って出て来る異常はなさそうだ。まだまだ探索を続けられるだけの身体のはずだ。
「よし、探索を再開するか」
「はい」
「コン!」
再び凜々花を先頭に置いて、二階層を目指して進む。
何度かの接敵を乗り越え、ようやく一階層と二階層を繋ぐ階段に辿り着いた。
「ここが二階層へと繋がる階段……」
「初めて来ました……」
下の階層から流れて来る空気が、足取りを重くさせる。
殺気なのか、ただ普遍的に溢れ出る圧なのか、何にしても身体が硬直してしまうだけの何かを肌で感じ取れた。
「こんなところで立ち止まっていても、借金は返せないからな……行こう」
「……はい」
「コン!」
俺たちは二階層に繋がる階段へと足を進める。
階段を一段降りるたびに、肌で感じる圧は強くなっていた。頭の中では戦いに対して意欲的に行けるが、身体は正直なようで震えが止まらなくなってきている。
「凜々花とゴン太は大丈夫か」
俺が震えているんだ。
二人も恐怖で身体が動かなくなっていても可笑しくないはず。
「大丈夫です」
「コン」
なんか大丈夫そうだ。
おかしいなぁ……俺が前衛を務めている以上、二人の度胸は俺以下だと思っていたんだが、実は一番度胸がなかったのは俺だったみたいだ。
「ここが【アニメックスダンジョン・二階層】……」
階段を降り切った先に広がるのは、一階層と変わり映えのない洞窟。
僅かな違いと言えば、若干苔むしているように見えるだけだが、それも目の錯覚に過ぎない可能性があるため、光景に変化はないという結論で良さそうだ。
「じゃあ進むか」
「はい」
「コン!」
一階層と同じような陣形で、二階層の探索を開始する。
確実に変わった空気感に息が詰まりそうになるが、同じ空気を吸っている二人が気にしている様子は見受けられないため、我慢して進み続ける。
「魔物が来ます」
階段を降りてから続く一直線、一番初めにある曲がり角は魔物よりも先にある。つまり俺たちに残された選択肢は、撤退か、接敵か、その両極端の二つしかない。
「どうする?」
「私に戦闘能力はないので、悟さんの判断に従います」
まあ聞かずとも分かってはいたが、一応聞いておかないと後々何言われるのか分からないからな。
「あれは……ゴブリンか」
しかしただのゴブリンではない。
一階層で接敵した全てのゴブリンは棍棒を武器としていたのと比べて、今回接敵したゴブリンが所持している武器は錆びた短剣だ。ゴブリンナイトと呼ぶ人もいるが、ギルドが定めた条件によると、ただのゴブリンが短剣を持ったに過ぎない個体。つまり普通のゴブリンということだ。
「あの攻撃は受けたくないから、ゴン太頼む」
「コン!」
ゴン太の鳴き声と共に生み出された火の玉は四つ。
一階層までのゴブリン相手には三つしか出していなかったことから考えるに、ゴン太も初めて出会った短剣持ちのゴブリンを警戒しているのだろう。
「コーン!」
鳴き声と共に火の玉が射出された。
ゴブリンはその小柄な見た目通りの機敏な動きで接近してくる。大雑把な軌道でしか操ることができない火の玉は命中せず、地面を焦がすことしか結果を残せていなかった。
「――!」
慌てて前衛に出て、ゴブリンの短剣を受け止める。
その膂力は一階層のゴブリンとそう変わらない。もしくは俺が二階層ゴブリンの膂力をものともしないほど成長しているのか。まあどちらにしても、一体で正面からという前提条件さえ満たしていれば、勝利できる相手ということだ。
「はぁぁぁ!!」
吠えながら全身の力を籠め、剣を押し付ける。
「はぁはぁ……勝利はできたけど、疲労感が一階層のゴブリンよりもあるな」
無意識の内に身体が緊張していたから、疲労が余計に溜まっているのだろう。
まあここでの疲労は一時的なもので、休憩さえすれば回復するし、まだまだダンジョンの探索は続けられる。
と思っていたんだが……いや確かに数体のゴブリンを倒してもなお、十分な体力は残っていた。だが慢心が油断を呼び、油断がピンチを呼び込んだ。
つまり何が言いたいのかというと、
「ほら、もっと速く走れ!! 一階層の階段を目指すんだ!!!」
初の二階層ゴブリンの討伐から数十分後、俺たちは何度目かの潰走を経験していた。
悟は大事なところで油断しがちです
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