表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おっさんテイマー~趣味のキャンプ飯を間違ってダンジョンでやったら魔物に懐かれました〜  作者: Umi
第1章 焔が輝く狐火

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/125

第119話 【魔境群馬ダンジョン群・三十四階層】

 階段を降りた先。そこは階段を降りる前に見ていた光景と、酷く酷似していた。人の気配のない空虚のコロシアム、そして舞台の中央で俺たちのことを待つ魔物。

 魔物の種が大きく違うことを除けば、三十三階層との違いはないと思う。その種の違いが大きすぎるため、ここが三十四階層であることは明確だ。


「猿?」


 それは舞台中央に居た。

 先刻、麗華が作り出した氷像に匹敵する巨体、地面に置かれたこれまた巨大な黒き棒。孫悟空を思わせる姿をしているその魔物は、猿魔(えんま)と名付けられた強大な力を持つ魔物だ。


「猿魔か……」


 エリザベスが呟く。

 刹那、突風が吹き荒れた。原因を探るため、周囲を見渡す。いや、見渡す必要などない。先刻まで数十、もしかしたら百メートル以上離れているところに居たはずの猿魔が、数十歩前に立つサーファーの持つ大楯に如意棒を押し付けていた。


 だが脅威的な移動速度を持つ猿魔でさえ、サーファーの牙城を崩すことはできないようだ。

 不動。二つ名を付けるのであれば、この言葉以外に適した名はないだろう。そう感じてしまうくらいには、圧倒的な防御力を持っていた。


 再び突風が吹き荒れる。そこに居たはずの猿魔は、舞台中央へと戻っており、こちらの動きを観察しているような雰囲気を纏っていた。


「だいぶ知能があるようだな」


「――」


 猿魔は何かの音を口から吐いた。

 それが言葉なのか、意味のない鳴き声なのか……俺には特段関係のないことだが、意味もなく気になってしまった。


 そして猿魔が口にした音には意味があった。それは音が俺たちの耳に届いてから直ぐに分かった。


「うっ」


 原因不明の頭痛――原因は猿魔によるものだと断定できるが、どういった理由で頭痛が走っているのかが分からない。毒によるものなのか、音で脳に異常をきたしているのか、スキルによる超常現象なのか、断定材料がないため、頭痛の原因は分からない。


 だが俺たちには聖女と名高いまいちゃんがいる。状態異常に限って言えば、即死を除いて通用しないと断定して良いだろう。


「まいちゃん!」


「分かってるよ」


 俺の叫びに、まいちゃんも応える。

 地面に巨大な魔法陣が光った。複雑な魔法陣の上に足を置く者、全てにまいちゃんの力が及ぶ。猿魔によって引き起こされた頭痛は、尾を引くことなくきれいさっぱり消え去った。


「流石、日本の聖女だ」


 まいちゃんの回復系スキルは、先駆者であるエリザベスですら感嘆の声を漏らす練度だ。

 未踏破領域【魔境群馬ダンジョン群・三十四階層】に生息している魔猿の力すら、軽々弾く力というのは、俺のパーティでは過ぎた力だろう。


「――」


 猿魔は自分の策をいとも容易く突破されたことに対し、とても憤慨したようで、顔をリンゴを真っ赤に染めながら、己が武器である棒を強く握り締めていた。

 規格外の握力に握られている棒が軋む音は、百メートル程離れる俺たちの耳まではっきりと届いている。しかしその行動は怒りに任せて八つ当たりしているわけではなく、己の武器を強化するための行動のようだ。


「赤くなった」


 俺の呟きは、猿魔の顔を指したものではない。元々赤みがかっていた黒い棒が、人の鮮血を想起させる真っ赤な棒へと変貌している。それに合わせて肌で感じられる棒に内包されたエネルギーも倍近くなっており、脅威度は跳ね上がっているように思えた。


 そして猿魔は跳ね上がった脅威度を示すかのように、跳躍していた。偽物の太陽に被り、その姿が曖昧に見える。思わず瞼を閉じてしまいそうになったが、吹き荒れる突風が正気に戻す。


「……」


 これまで通り、ビキニのサーファーが猿魔の攻撃を受け止めている。しかしこれまでと違う点は、数歩分後退していたことだ。サーファーの不動の牙城を崩されたと言っても過言ではない。


「安心しろ。この程度で山城(やまぎ)の防御がやられることはない」


 エリザベスの言葉通り、ビキニのサーファー――山城がそれ以上押されることはない。

 猿魔は赤くなった棒を地面に突き立てて軸にすることで、遠心力を加えた蹴りを放つ。大楯へと蹴りが炸裂するが、山城がそこから後退することはなかった。


「……」


 山城は変わらず無言を貫いているが、初めて防御以外の動きを見せた。猿魔の脚ごと大楯を押し出すと、当然猿魔のバランスは崩れる。


 そこを好機と突っ込んで行ったのは、柳生。鍔鳴りを鳴らしていないのにも拘らず、ドンピシャの位置へと突っ込んでいる。それは長年培ってきた連携が為している技だと思う。


「――」


 柳生の刀。それが猿魔の身体に傷を作っていく。

 猿魔も巨体を生かした抵抗を試みているようだが、柳生の猛攻はその程度では止まらない。顔、身体、脚、腕……に見せかけて脚といった風に、ランダムで放たれる斬撃に、猿魔は追いつけていないようだ。


「ふぅ」


 柳生の口から息が漏れた。

 それは戦いの終わりを告げる鐘の音……そんな高尚なものではないが、柳生が戦いを終えて息ついたことだけは確かだ。


「かなり強力な相手だった」


 俺は柳生の言葉に対し、疑惑の目を浴びせざるを得ない。傍観者である俺の目からすると、柳生の戦いは極めて一方的な戦いのように思えた。膂力など肉体の性能に関しては猿魔の圧勝だったかもしれないが、技術という面に関しては月とスッポン――でも足りないほど、かけ離れた差があった。


「確かにそうだな。あれは化け物じみていた」


「……」


 山城は変わらず無言を貫いているが、エリザベスの言葉に対して首を縦に振っていた。

 反応を見せた先駆者全員が強力な相手と認めたならば、俺の意見は間違っていたのだろう。そもそも俺からすれば、このダンジョンに出てくる魔物は、誰も化け物じみた強力な魔物に違いないんだけどな。


 猿魔についての会話は、山城による無言の頷きで終わり、気付かぬ内に現れている階段を降りる。


 次は三十五階層。何階層まで続いているのかは分からないが、まだまだ終わらない事だけは確かだろう。

 そんな終わりの見えないダンジョンに対し、俺は僅かな絶望感を抱いていた。だが光はやってくる。



猿魔は並の(ドラゴン)以上の力を有しています。


ブックマークと★★★★★をお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ