34.再び医者の家で
19時になったので、扉をノックして、医者の家におじゃました。
畑谷はオレの後ろを緊張気味についてきている。
オレたちに気づいた看護師が、
「夕食の用意できてますよ、どうぞお座りください」
とダイニングテーブルに案内してくれた。
ダイニングテーブルに座っていた医者が立ち上がり、畑谷を見て、
「畑谷さんですね。はじめまして。私はこの診療所で医師をしている佐竹です」
畑谷はペコペコと2度頭を下げて、
「畑谷です。お世話になります」
と言い、医者と同じタイミングで椅子に座った。
オレはワンテンポ遅れて椅子に座った。
「畑谷さんもオルダをお持ちだったりするのですか? 畑谷さんのオルダも見てみたいです」
医者は目をキラキラさせて畑谷を見ている。
「ああ、これです」
と畑谷がカバンから和綴じノートを取り出して見せると、医者と看護師は同時に「ノート?」と目を丸くした。
畑谷は「どこにいるだろう」とノートを1ページずつめくっている。
オレはそれを横から見ながら、オルダの姿が見えたところで「そこ」と助言した。
そこにはヌルヌルと動くオルダがいた。
「これです」
畑谷はノートを医者と看護師に見せた。
二人は覗き込むようにオルダを見て驚いている。
「オルダが住んでいるのは石だけではないんですね」
医者がオレを見て言ってきた。
「オレも今日初めて知ったんです。オルダがノートに住むなんて、見たことも聞いたこともなかったです。今日畑谷くんに出会わなければ、想像もしませんでした」
「今日?」
「今朝、診療所の前で出会ったんですよ」
医者と看護師は再び同時に目を丸くした。
「え?」
「今朝、五十嵐の体を拭いていたら、急にオルダが鳴き始めて、外を覗いたら、畑谷くんがうずくまってて」
すると畑谷が笑顔で言った。
「いやあ、戸塚さんに出会わなければ、俺はいまだにオルダの存在にも気づいていませんでしたし、謎の耳鳴りに悩まされていたと思います。本当に出会えてよかったっす」
医者と看護師は少し不安そうな顔をしているので、オレは安心させるために言った。
「大丈夫です。何かあればオレが責任取ります」
畑谷はそれを受けて、「俺、何も悪さしないっすよ」とオレに訴えてきた。
看護師はパンと手を叩いて、
「まずは、食べましょうか。冷えちゃいますし」
「そうですね、いただきましょう」
オレたちは「いただきます」と箸を手に取った。
看護師は、食べ始める前に自分の皿に乗るムニエルに醤油を一回しした。
「味が薄いと思うので、遠慮なく醤油かけてくださいね」
と、自分の持っていた醤油をオレたちに差し出してきた。
「薄味が健康にいいんだよ」
医者は何もかけずにムニエルを一口食べた。
オレもムニエルを一口食べた。確かに薄い。
「すみません」
オレは醤油を手に取り、ムニエルにかけた。
「イギリス式なんですね!」
畑谷がムニエルを食べて言った。
「昔イギリス旅行行ったとき、何食っても味しなかったんすよ。聞いたら、ソースとか塩コショウとか、自分で味付けするのが普通の文化なんだって言ってました」
こいつはうまいことフォローしたつもりなんだろうが、何食っても味しなかったイギリスと同じだったとハッキリ言いやがった。
オレは医者が怒るんじゃないかと心配していたが、その心配をよそに、
「イギリス式、その通り!」
と医者は畑谷の話にのってきた。怒って無さそうで一安心である。
「今日は、何か進展ありましたか?」
看護師が唐突に話を変えた。とてもありがたい。
「昨日よりは情報が得られましたが、五十嵐がなぜああなってしまったのかというのは、全く分からないままです。戻ってきたときにチラッと話が出ましたが、笹嶺神社の裏の森で、掘って確認したい場所がありまして。そこを掘ったら、何か情報が得られるかもしれないと思っています」
「笹嶺神社の裏の森を掘る? 裏の森に何かあるんですか?」
医者は驚いて言った。
「オルダがいたんすよ」
畑谷が前のめりで答えたが、それはまだ言わないで欲しかった。
「オルダが?」
「ええ。姿は見てないですが、オレのオルダが鳴いていたので、存在しているのは確かです。その姿を見たくて、掘ってみようかと」
「五十嵐さんも掘ろうとしてたんですかね?」
「分からないですが、笹嶺神社で何かやろうとした結果、そこで倒れたのだろうとは思います」
「心配ですね」と医者が言った。
「もし何かあったら、五十嵐さんのようなことになったら大変なので、掘る前は警官とか同行させた方がいいと思います。あそこ、電波繋がりませんし」
「そうですね、気を付けます」
こうしてオレたちの夜はふけていった。
流れで、畑谷にWiFiのパスワードを教えてもいいか確認したらOKが出たので、あとで教えてやろうと思う。




