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測定不能

「…………」


 シュンはしかし答えない。とぼけた顔で空なんかを眺めている。


 苛立ったようにアルスがもう一度大声を発した。


「聞こえなかったのか。新入生シュン君! 前に出なさい!」


「……あ、やっぱ俺?」


「おまえ以外に誰がいる! さっさと前に出ないか!」


「……やれやれ」


 シュンはロニンを一瞥すると、そっと手を離し、代わりに肩をすくめた。


「初々しい新入生を《おまえ》呼ばわりですか。怖い怖い」


「……ふん。減らず口は変わらんようだな」


 二人のやりとりを、他の新入生たちは呆然と眺めていた。


 人類の希望ーー勇者アルス。

 彼に対し、ここまで傲岸な態度を取れる者がいようとは。しかも勇者の口振りからして、この二人、以前に会ったことがあるような雰囲気がある。


「おい……あいつ、さっきセレスティア様と話してた奴じゃないのか?」


「まさか勇者とも知り合いなのかよ!」


 他の新入生がそんな声を発したせいで、他グループの生徒たちもシュンに目を向けた。ちなみにセレスティアはこの場にはいない。


 もはや、ほぼすべての者がシュンとアルスに注目してしまっている。試験中の三人だけは必死に剣を振るっているが。


 シュンは一歩前に出ると、懲りずに薄く笑った。


「久しぶりじゃねえか。おまえ、ずいぶん人気者みてえだな」


「……立場をわきまえろ。いまの俺は教師だ。そしておまえは生徒だ」


「……へいへい、わかったよ」


 シュンは両拳をがつんと打ちつけ、戦闘の構えを取った。


「おまえ、剣は?」

「いらん」

「……ふん」


 この試験は騎士としての適正を試すものであり、別に剣を使わずとも騎士にはなれる。

 だからアルスはそれ以上はなにも言わず、指をぱちんと鳴らした。


 途端、シュンの眼前にデッドスライムが現れる。彼我の実力差がわかっていないのか、シュンに向けてぴきーっといううなり声をあげる。


 そこからはほんの一瞬の出来事だった。

 他の新入生たちには突風が舞ったとしか認識できないまま、ばたりとデッドスライムが倒れたのである。

 実際には頭部に一発だけ殴打を見舞ったが、それを見て取れたのはロニンだけ。

 アルスもよく見切れないままに、シュンの試験は終了した。


「おい……見えたか、いまの……」

「いや、全然……」


 あまりにも呆気ない結末に、新入生たちも驚きを隠せない。それだけシュンの攻撃は人間離れしていた。


「……待て」

 長い静寂を、アルスの太い声が破る。

「デッドスライムはまだ死んでいない。モンスターを討伐するまでが試験だ」


 それは事実だった。

 デッドスライムは気を失ったように白目を剥いているが、絶命には至っていない。時間が経てばまた目を覚まし、人間に襲いかかってくるだろう。 


 しかしシュンはデッドスライムに背を向け、大きく欠伸をする。 


「知らねえよ。いまので実力はわかったろ?」


「ならぬ。デッドスライムを殺すまでは……」


「おい、二度も言わせんなよテメェ」


 シュンは振り返り、鋭い眼光で勇者を睨んだ。


「う……ぐ……」

 アルスは気圧されたように唾を飲んだ。


 そうしながら思い出していた。四ヶ月前、圧倒的な実力差でシュンに殺されかけたことを。その気になれば、シュンは勇者など簡単に殺せるということを。


 この四ヶ月、アルスも必死に己の技を磨いてきた。何度も剣技と魔術の鍛錬を行ってきた。


 ーーそれなのに、まだまだこの村人には適わぬというのか。


 歯ぎしりをしながら、アルスは震える声で言った。


「……新入生シュン、測定不能。次の者、前へ出よ」

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