表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/263

村人 VS 魔王 2

 シュンは勢いよく地を蹴った。

 彼が全力で駆けるだけで、周囲に突風が舞う。

 砂埃が激しく舞い上がる。


 だが魔王とて、モンスター中で最強の男。

 シュンから放たれた剣撃を、抜きざまの刀身で防ぐ。

 このまま剣の押し合いが続くが、両者の物理攻撃力は拮抗状態。

 キリキリキリキリと、不快な金属音が世界中に響きわたる。


 シュンはもう一方の剣を突き出すも、魔王はそれを予期していた。魔王の片眼が真紅に染まる。


 炎の攻撃魔法。インフェルノ。

 死の業火が、突如として荒野全体を覆い尽くした。

 それは万物を燃やし尽くす凶悪な火炎地獄。摂氏一億度を超え、触れた者を瞬時にして溶かしてしまう悪魔の一撃。それがシュンを呑み込まんとばかりに襲いかかってくる。


 シュンは悟った。

 もうどこにも逃げ場はないと。天空にすら魔王の火炎に満ちていると。

 舌打ちをし、両腕で顔面を守る。

 魔王は甲高い笑い声をあげ、攻撃魔法の出力を最大にまで高めた。その顔には勝ち誇ったような笑みが刻まれていた。


 紅の閃光がほとばしり、そして消えた。


 次の瞬間には、無人の荒野が広がっていた。あらゆる箇所で黒煙が昇っている。この地でかろうじて生き延びていた植物は、残らず燃やし尽くされた。


 魔王は狂ったように笑い続けた。

 村人は死んだ。自分に適う者など、勇者も含めいるはずがないのだと。


 ふいに。

 魔王の肩を、背後から叩く者がいた。

 ぎょっとして振り返った魔王は、心臓が飛び出るほどの驚愕に見舞われた。

 ただの村人。引きこもり。

 なのに、魔王の渾身の一撃を受けてなお、彼はへらへら笑っていた。


 いや。

 上半身の服が焼けただれ、毛髪も激しく乱れている。頬の一部も焦げてしまっている。決して無事というわけではない。


 だが、魔王は恐怖を覚えた。

 村人の底知れない力に。 

 全力の魔法を身に受け、それでも笑っていられる男に。

 いつしか魔王は叫んでいた。

 無我夢中で振り払った刀身を、村人は息をするように弾いてみせた。


 魔王になすすべはなかった。あっけなく後方に仰け反り、致命的な硬直時間を課せられる。そしてこの村人がそれを見逃すはずもなかった。


 漆黒の剣が、空を裂いて突き出されてくる。魔王はそれを、どこか他人事のように眺めていた。

 一撃。そしてまた一撃。

 神速のごとき打ちだれてくる攻撃に、魔王は避けることも防ぐこともできなかった。

 しかも喰らうごとに命を吸い取られているような感覚がある。それに反比例して、村人に与えたはずの傷も回復していく。


 魔王は理解した。

 この村人には勝てない。最初から戦うべき相手ではなかったのだと。

 次の瞬間、魔王の心臓部を、闇の剣が深々と突き刺した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ