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本当に、この村人だけはわからない

 気づいたとき、ディストは地に寝かされていた。


 視界に映るのは満天の星空。


 ああ、俺はまた地べたで昼寝を……

 そこまで考えて、ディストは全身に寒気が走るのを感じた。


 急いで上半身を起こし、周囲を見渡す。

 草原だ。

 ただひたすらに芝と木だけが広がる大自然のなかを、ディストは無防備にも眠ってしまっていたらしい。


 ーーいや。


 違う。


 眠っていたというより、気絶させられたのだ。


 俺は……


「よォ」


 ふいに脇から声をかけられ、思わず飛び退こうとする。


 が、できなかった。


「うぐっ……」


 ディストは自身の腹を抱え、うずくまる。


 全身に鋭い痛みが走り、動くことができない。かろうじて上半身だけは動かせるが、足はまだ言うことを聞いてくれそうにない。


「おいおい無茶すんなよ。動けねえだろ?」


「き、貴様……!」


 あの村人だった。変わらないヘラヘラ笑いを浮かべている。


 彼はあろうことか、ずっとディストの隣で横たわっていたらしい。


 ーーまさか。

 まさかこいつは、俺の防衛をしていたというのか。


 こんなところで寝ていては、通りがかった人間に殺されるおそれがあるから。俺には立派な尻尾が生えているから。


 見殺しにせず、かといって自分の手で殺しもせず……


「なぜ……」


 知らず知らずのうちに、ディストはつぶやいていた。


「なぜ俺を殺さない! 敵に情けをかけられるくらいなら、いっそ死んだほうがよほどいい!」


「まあまあ、そう言うなよ」


 あくまで村人の様子は明るかった。どこまでも掴みきれない奴だった。


「おまえがクッソみたいに憎い奴なら、俺だってそうしてたさ。けど、そうは思えなかったもんでな」


「…………」


 押し黙るディスト。


 そういえば、この村人は以前にも同じことをしていたようだ。

 よくわからない理由で勇者と戦い、よくわからない理由で殺さなかった。


 それとまったく同じことをされたということか。

 物思いに耽っていると、シュンは思いもよらない言葉を発した。


「ロニンと会いてえんだろ? なら会わせてやるよ」


「なっ、なんだと!?」


「ただし、いきなり暴れようってのはナシな。まあ、その身体じゃできねえだろうけど」


「…………」


 ぱくぱくと口を開けたまま、ディストはなにも言えなかった。


「そこから二人で逃亡したきゃそうしろよ。俺は止めねえ。あ、おまえたち二人がかりでも俺には勝てないから。間違ったこと考えるなよ」


「……な、なぜ……」


 全身を震わせながら、ディストは呟いた。


「貴様は人間だろ! なぜ我らに情けをかける!」


 さしもの村人もこれには答えられなかったらしい。後頭部をぼりぼり掻きながら、自信なさそうに答える。


「いや、それがなぁ……。俺にもわっかんね」


「はっ……?」


「モンスターってな、俺たちは《凶暴で手をつけられない存在》って教わったんだよな。でも実態は違うみたいな。そんな奴を簡単には殺せねーよみたいな……」


 台詞の後半はかすれ声だった。彼も自分自身でよくわかっていないのだろう。


「さ、行くぞ。歩けねえだろ? おぶってやんよ」


 言いながら、ディストを持ち上げようとするシュン。


「ば、ばか貴様! 触るな!」


「おいおい暴れんなって。それだけロニンに会える時間が減るぞ」


「ぐ……!」


 言われるままにおぶられるシュン。この歳になって抱っこされようとは思ってもいなかった。


「嫌な顔すんなよな。俺だって、できりゃ可愛い女の子をおぶりてえよ」


「わ、悪かったな! むさ苦しい男で!」


 ーーロニン様。

 貴方様が、なぜこの男についていったのか。

 いまなら、すこしだけわかる気がします。


 年甲斐もなく抱っこされながら、ディストはそんなことを考えたのであった。

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