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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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邪悪なる咆哮(5)

 ノォトは目を見開いた。燃えるような赤い瞳が、燦々と輝く。

 体は一部が炭になっていた。脚はもはや、動くことすら許さない。

 それでも立ち上がる。まだ何も折れてはいない。骨も、剣も、心も。何一つ折れてはいない。

 ついに、ノォトは邪竜を圧倒した。生きようと、戦おうとする気迫のみによって。

 ゆらり、と一歩進む。それにつれて、邪竜も脚を引いた。


「汝、なぜまだ立てる。なぜ動こうとする。その体は最早、限界のはず」

「それを決めるのはお前じゃない」


 魔剣をしっかり握った。動かした指が痛い。だが、この痛みすら生きているという感覚がする。心地よくさえ思える。

 ノォトは邪竜の目を見た。覗き込んでくる目を、逆に見返した。


「俺は孤独だ。父は死に、母は俺の元にはいなかった。義父は王であり、養父は魔法使いだ」


 すべて、自分から遠く離れて行っていた。

 親と呼べる者はなく。友と呼べる者もなく。

 ただ一人、水のない荒野を歩いているような気さえした。


「だが、それがどうした。俺は、誰にだってわかってもらえなくとも進む。そう決めたからだ」


 体にまとっていた鎧が転がった。甲高い音が響く。

 この身を守るものはなにもない。だが、それ故にノォトはいま、身軽になっている。

 欲望の塊である黄金の山の頂上で、ノォトは邪竜を見上げた。


「王とは己の法により律する者。我が領土、我が財を侵そうものならば、我が剣によって裁く」


 だから、俺の孤独には誰にも触れさせはしない。そして、誰かの孤独にも触れたりなどしない。

 自分のことなど誰にだってわかってもらえないだろう。

 だが、誰だって変わっていく。それは他の誰かがいるからなのだ。

 父が生きて、母がいた。誰かに見られ、誰かに育てられた。

 人の王がいて、妖精の女王がいて、土塊の王がいた。

 そして何よりも美しい彼女がいた。

 故に、孤独なる自分はここに立っているのだ。彼らからたくさんのものを受け取った。良きも悪きも、すべて。

 孤独の隣にあるのは孤独である。孤独を持ち寄って、人は生きているのだ。


「俺は孤独だが、決して一人で生きてきたわけではない」


 それは誰かを否定することではない。わかってもらえなくても、受け止めることができる。

 ノォトはそう信じている。

 邪竜を見上げる。あれほど大きな存在だった彼が、いまはどうしてか恐ろしくなどない。

 ノォトは自分の右手を見た。真っ黒に焦げている手である。

 その指の一つに、明かりが灯った。黄金の輝きを放っている。


「なんだ、これは。なんだ、なんだ!」


 邪竜が叫ぶ。その叫びは洞窟をも揺るがすものであった。

 ノォトは気づく。足元にある黄金の輝きが増している。その輝きは粒子となって、ノォトの手に集約した。

 光の流れはノォトに力をもたらした。魔剣にさらなる輝きが添えられる。

 理解する。これが竜の力なのだろう。竜になるということなのだろう。

 孤独に生き、誰にも理解されずに歩むということ。

 己の中にあるものを信じるということ。

 自分はここにいるのだ、と叫ぶこと。

 じっと、邪竜を見つめた。天井に届かんばかりの威容だ。だが、ここでは狭いだろう。巨体に合わぬ棲家だろう。

 ノォトは口を開く。


「竜よ、哀れだな」

「なに?」

「お前は誰よりも孤独な者だったのだろう。誰にも理解されず、誰かの欺瞞の奥底を見て、誰かの欲を知っているのだろう。だが、一つだけ、お前に足りないものがある」


 邪竜が吼えた。先にノォトが魔剣の力を放ったときと同じ。それ以上、相手の口を開かせぬように威嚇をしているのだ。

 それでもノォトは止まらない。


「お前には誇りが決定的に足りない。己を誇れよ、聞いて呆れるぞ」


 ノォトには誇りがある。

 それは自分を支えてくれた者、自分を見てくれた者。

 自分が倒した者、助けた者。

 そして己が歩んだ道こそが、ノォトの誇りだった。その証たる魔剣が手に握られている。

 お前にそれがあるか。ノォトは問う。邪竜は答えなかった。

 右手に宿った黄金の光は、やがて大きな輪になった。その輪はノォトの魔剣を通る。

 再び、魔剣に力が宿った。その光は巨大な刃となった。

 動くこともできなかった体に力を取り戻した。

 いいや、いままでで最も力にあふれていると言っていいだろう。

 邪竜の口に再び、炎が生まれた。さっきよりも大きな力だ。それでもノォトは行かねばならないと思った。

 まっすぐ剣を突き出す。黄金の山を蹴って、ノォトは邪竜へと飛び込んだ。

 黄金諸共焼こうとするかのような豪炎が、洞窟を包んだ。

 ノォトの魔剣と炎がぶつかる。凄まじい一撃であった。これが邪竜の全力だ。村一つどころか、国すらも焼いてしまうような熱だ。

 相手は荒野や火山に喩えられるものだ。国の二つや三つ、潰せてしまうだろう。

 だが、自分は王になる者である。いかなる脅威であっても、己が背負っているもののために負けたりなどしてはならない。

 孤独であっても、誰かがそこにいるのだから。


「おおおおおおおおおっ!」


 吠える。吼える。咆える。猛りに任せたまま、技もなにもなく、叫んだ。

 ノォトはついに、邪竜の炎を切り裂いた。

 輝きが炎を両断する。突き抜けた刃はまっすぐ、邪竜の胸を穿った。あれほど硬かった鱗も、驚くほど容易に貫いてみせた。

 邪竜の絶叫が洞窟に響く。ノォトの視界は、光と血の赤に埋め尽くされた。

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