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烈日王に極光の歌  作者: ジョシュア
竜の歌
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戦士はともになれない(4)

 ノォトは心臓めがけて突き出された槍を見ていた。時がゆっくりと流れている感覚がする。

 鉄の色をした穂先が、命を刈り取るべく迫る。完全に手遅れだ、とノォトは気付きながらも身を引いた。

 そのときである。グラニが鳴いた。体を掲げて、ノォトを槍の軌道から逸らしたのだった。槍の切っ先はノォトの肩を掠める。馬上から転落したノォトであったが、すぐに体勢をたて直した。魔剣を背中から抜き、フーゴの方へ向く。

 槍を振り切った構えで、フーゴは静止していた。柄を長く持ち、突き出した構えだった。


「……侮っていたな。おたくをじゃない、おたくの馬をだ」


 ノォトは答えず、魔剣を握ってにじりよった。フーゴも応えるように槍を引いて、構える。穂先を下げる構えだった。

 正面に構えた魔剣の先に、フーゴを見据えた。少しだけ目がくらむ。森と違って木々がなくなって、暗さにすっかり慣れてしまった目には、日の光がまぶしかった。


「なぜこんなことをする?」

「悪いな……俺らの間にはもう、言葉は不要だよ!」


 フーゴが踏み込んできた。ノォトは防御の構えをとった。

 魔剣を斜めに持ち、迫る槍をはじき返した。続けさまにフーゴは槍の連撃を加える。魔剣を巧みに操るノォトだが、防戦に徹している。攻め手が見つからなかったのだ。


「ノォト!」

「おっと、戦士同士の戦いに割り込むのはなしだぜ?」


 ブロムが魔法を使おうとしたが、フーゴはノォトを挟むように位置を取って、その行使を邪魔した。こうなってしまえば、どんな魔法であってもノォトを巻き込んでしまう。

 戦士同士の戦い、とフーゴは言った。とてもこんな不意打ちをした者の言葉とは思えなかった。


「おいおい、こんなものか、王子様?」


 フーゴはそう言いながらも、手を緩めはしなかった。普段の言動からは想像もできないような果敢な攻めだ。正面から敵を叩き潰すための技の数々に、ノォトは舌を巻いていた。

 魔剣で大きく槍を弾いてノォトはフーゴと距離をとった。特に苦戦はしなかったが、ノォトは妙な脱力感とともに、魔剣を地面に置いた。


(なんだ、この感覚は)


 いままでこんなことはなかった。戦いの最中であっても、力が抜けるなどと。


「ようやく気づいたか」

「なに?」

「いや、まさか、そんなことがあるかとは思ったがな」


 おたくの体力が本当に無尽蔵なのか、試したのさ。

 フーゴはそう言った。ノォトは、ぽかんとした。


「戦場では決して衰えることはない体力って聞いてな。なるほど、戦いの中じゃあ有り余るほどの体力だ。三日三晩戦い続けることもできるだろうよ。だけど、まだまだお子様だ。口での戦い、精神での戦いはどうだ?」

「なにを言っている?」

「罪のない者を殺せるか? 敵でさえ生かそうとした者が。暗がりの中、守らないといけないものがたくさんあるのは? 信じることのできない相手の隣で寝れるか? 俺との会話は億劫にならなかったか?」


 くくくっ、とフーゴは笑った。ノォトはようやく理解する。いままでのありとあらゆる奇襲はフーゴがすべて仕組んだものであり、このときのためのものであったと。


「お前……!」

「そして気づくのも遅い。優しすぎるんだよ、王子様。そんなんじゃ、ついてきた者を無闇に殺すだけだぜ」


 フーゴは言った。ノォトは、魔剣を改めて握り直す。油断ならない相手だと思っていた。だがその実、槍の腕前以上に恐ろしい手を使ってきていた。

 どれもこれも、ノォトがいままで味わってきたことのない攻めであった。事実としてノォトは疲弊している。力を十全に発揮することができない。


「……なぜ、俺を狙う。誰かの敵討ちか、それとも金で雇われたか」

「簡単に話すかよ。なんでも答えてくれるような、優しい大人ばかりじゃねえんだぜ?」


 フーゴはそう言って、再び槍を打ち込んできた。大ぶりの攻め。ノォトは魔剣で受け止める。さらに後ずさった。斬り返すも、すでにフーゴは退いている。

 それからフーゴは同じことを繰り返した。ノォトの苛立ちを引き出すためだろう。平静に努めようとするノォトであったが、最後の一手を見て目を見張った。

 槍が消えた。早すぎて目に追えない、ということはない。例え疲弊していても、人の技において自分の目に追いつけないものはないとノォトは自負している。

 直感で魔剣を振るった。甲高い金属の音とともに、火花が散った。消えたはずの槍が姿を表す。

 ついに顔をしかめて、フーゴは後ずさった。


「ちっ、勘のいいやつだ。生粋の戦士だよ、おたくは」

「……魔法を使ったな。姿を消す魔法を」

「おうよ。戦士として失格だ、とか言うのはなしだぜ。てめえを相手にするには、どんな手を使ってでもしなきゃ勝てはしねえんだからな」


 笑いを浮かべるフーゴであったが、彼も余裕を失いつつあるのだろう。顔がひきつっていた。彼が持ちうるあらゆる手段のすべてを投入していることは事実なのだろう。

 ならばノォトも、己の持つすべての力を注がねばなるまい。フーゴを卑怯とそしることはしない。しかし、自分は己の信条に従って、全力を尽くすのみだ。

 構えを変えた。右脚を引いて、切っ先を下げる。先ほどまでが防御の構えであるならば、これは攻撃の構え。早さと一撃にかけた、捨て身であった。


「……いいねえ、一度敵と見れば容赦しねえって。その潔さを、もっと早く持てればな」


 フーゴが言った。彼もまた、槍を構える。先ほどと同じ、穂先を下げた構えだった。集中してみればわかる、魔力の感触があった。何かを仕掛けてくるのだろう。

 風が吹いた。湿った風だった。雨が降るのだと告げていた。

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