戦士はともになれない(2)
男はフーゴと名乗った。彼は火を囲みながらも、くだらない話を少ししてから、体力が尽きたのか寝た。ノォトはそんな彼を夜通し監視していた。どこか信用ならない気配が、彼からはしていた。のらりくらりとする中で、少しでも隙を見せてしまえば、槍の餌食になるのが目に浮かんだ。
朝になって、目を覚ましたフーゴは、ずっと起きていたノォトを見て笑った。
「なんだ、寝なくていいのか? 」
「一週間寝なくとも、俺は問題ない」
「へえ」
感心したのか呆れたのか、フーゴはそう言った。槍を器用に取り回すと、背負った。ノォトもまた、魔剣を背負って立ち上がる。
「少し、同行してもいいかい? この先にある城を目指してるんだが、一人じゃあ心細いんでね」
「あれだけの腕があれば、俺らの助力も不要だろう」
「それはおたくもそうだろうよ。俺の助けは不要だった。違うか?」
「ではなぜ助けた?」
「恩は売っておくに越したことはない。押し付けがましくてもな」
へへっ、と笑うフーゴを、ノォトはいぶかしむ目で見た。それはブロムも同じだった。
この男の浅い感じが、ノォトの神経を逆なでした。平静であろうとするたびにこの男は笑ってくる。挑発をするように。
落ち着かなければだめだ、そう言い聞かせた。
「ついてくるのは、構わない」
「ノォト!」
ブロムが叫んだ。だが、ノォトは譲らなかった。ここでこの男を見放してしまえば、大切なものを失ってしまいそうな気がした。
対してフーゴは、にやりと笑う。その笑顔だ。ノォトは睨みつけた。
「そいつは助かるな。ノォト、と言えば、戦場じゃ死神とも恐れられる男だ。そんなあんたが味方だなんて嬉しいぜ」
曰く、出会えば負けを覚悟しろ、というのは戦士の常識である。
ノォトはふん、と鼻を鳴らした。初めから負ける気でいる戦士に、負けたりはしない。そんな者は戦乙女二だって選ばれはしないだろう。
無性に腹を立てたが、それは疲れによるものだとノォトは決め込んだ。
「その代わり、道案内はしよう。ここから三日も歩けば、予言の王グリエルがおわす居城がある。俺はそこへ、志願しようって腹積りなんだが」
お前らが彼らに会うのは、決して利がないわけじゃないだろう。
それは魅力的な提案にノォトは思えた。グリエル、と言えば賢王として有名な人物である。そして争いを嫌う者としても。ノォトはかつて、彼の在り方に否定的であったが、いまでは彼には会うべきだろうと思っていた。
なにより、彼の予言は大きな力を持っていた。魔法使いとしての腕はあまり高くない、というのがブロムの評であったが、その代わりに持っている予言の力は神々の運命さえも見通しているのではないかと言われている。
「確かに、会うのもいいかもしれないな」
「ノォト! 我らの目的を忘れたか!」
邪竜を討つことを口にすることが憚られたのか、ブロムはそう言った。
忘れてはいない、とノォトは返す。だが、正面から無策で立ち向かって行って勝てる相手とも思えなかった。なにより、ノォトは竜を討った先のことも考えている。王として人々の上に立ったときのことを思えば、彼の言葉を無視することはできない。
「養父上、少しばかり寄り道をしたい。俺には必要なことだ」
「勝手にしろ。だが、忘れるな。お前に必要なことはただ一つであり、お前のことを一番知っているのはこの私だということをな」
ブロムはそう言った。ノォトは頷いて、フーゴへ向き合う。
話はまとまったかい、とフーゴは言った。ああ、とノォトは頷く。
「いいだろう。しばらく同道しよう」
「そいつは助かる。かの王も喜ぶだろうさ。天下無双の戦士を、客人として迎えられるんだからな」
フーゴはそう言って、歩き始めた。彼の背中を見て、力が抜けた感じがした。気付かないうちに緊張していたのだろうか。
武器を交わしていないのに、戦っているような感覚がした。剣であれば、ノォトは勝つ自信があった。だが言葉での戦いは不得手であるということを痛感させられたのだった。




