ドヴェルグの炉(2)
「ドヴェルグの、王?」
目の前にいるのが、鍛冶の一族の王であるということにノォトは驚いた。そして巨人に襲われた街、ロドワースで出会ったブロックもまた、その王に連なる者であるということに。
偶然の出会いにしては出来過ぎだろうと思いながらも、そういうものかもしれないと一人で納得する。
「そうだ。ついでに言えば、ブロックと俺は双子の兄弟でな。見分けがつかないくらい似てる、と言われるんだが、わからんかったか?」
「ドヴェルグはどいつも同じに見えるものだと思っていたが」
「ははっ、違いない。俺らじゃなきゃわからねえもんだ」
エイトリはそう言った。よく生えている髭に、小さな体。見えているところなど鼻から上しかなく、それだけでどう判断しろと言うのはなかなかに酷なように、ノォトには思えた。
「さあて、この手紙の中身だが、お前は知ってるか? この手紙の持ち主が欲しがっているものはなんでも与えてやれだ。俺の兄貴は大雑把なことこの上ないやつだ。そうは思わないか? 俺は弟だが、一国の王だぞ。その俺に、客の言うことを聞けと。まあ、あの兄は誰かを見る眼は確かだがな」
ぶつぶつと、エイトリはそう言った。こういう言葉数の多いところは確かに、ブロックの弟であるようにノォトには思われた。愚痴を言いつつ、きちんと兄のことを信頼しているあたり、ノォトは微笑ましくなった。
「さて、ノォトとやら。お前には何か俺たちに願うことがあるはずだ。そうでなきゃ兄貴がこう言うわけがないし、あの薄暗い洞窟を命がけでやってくるわけがねえんだ」
ノォトは頷いた。自分の荷物を出すように言うと、エイトリは袋を取り出す。ノォトはその中から、折れた魔剣を取り出した。
その魔剣を見たとき、エイトリは目の色を変えた。じっと眺めている。鍛冶をする者の目だ、とノォトは思った。
「この魔剣を再生させたい。だが、俺には、俺たちには折れた剣を直す技術はない。故にドヴェルグの知恵を貸してもらいたい」
「それで、魔剣を再生させてなんとする?」
エイトリが言った。今度は、王の目をしていた。なるほど、王とは顔を使い分けるものなのか、とノォトは感心した。気安く、おしゃべりであっても、一線を越えさせるかどうかは考えるのだ。
「俺は、地上で最も優れた王になる」
ちら、と夢で見た父の顔を思い出した。だが、それをすぐに振り払う。今は、己の為すべきことを。
「そして、ブロックとも約束したのだ。その魔剣を再生させたあかつきには、かの巨人を討つ」
「ほう……その約束を守るつもりだと?」
「然り。真の王たるもの、約定は違えぬものだ。そうだろう?」
ノォトが言うとエイトリは笑った。なにかおかしなことを言っただろうか、と首を傾げる。
ひとしきり笑って落ち着いたエイトリは、ノォトの肩をたたく。
「青いな。だが、悪くない。そうとも、真に優れた王は約定を違えない。そしてそれは、兄貴もそうだった。なるほど、兄貴の目にはやはり狂いはない」
エイトリは一人で納得して、頷いていた。
そしてノォトの腕をとって寝台から立たせる。そして固く、手を握った。
「いいだろう。お前のその願い、このエイトリが聞き届けよう。自分の足で来たその根性も気に入ったよ。それに、あの巨人には俺らも悩まされてたんだ」
エイトリ曰く、鍛冶に必要な材木を集めるために森へ行こうにも、あの巨人のせいで安心できずにいたのだそうだ。ドヴェルグたちは鍛冶に優れているが、あの巨人を御すほどの力は持っていない。ノォトはなるほど、と頷く。
「手を握ってわかった。お前も鍛冶をやってるな? それもいい腕をしている。いいねえ、俺らの技術を持ち、俺らに並ぶだけの人がいるなんてな。エルフよりよっぽど、話ができそうだぜ」
笑顔でそう言うエイトリ。ノォトはふと、抱いた疑問を口にした。
「なぜ、そうエルフを嫌う」
「そりゃあお前、気にくわねえからだよ。俺たちは森の木を切る。あいつらは、森の木を可愛がる。ほらな、お互いに気にくわねえんだ」
そういうものか、とノォトは少しだけ、納得した。
「……だが、フィオネに手を出そうものなら」
「わかってるって。お前に手を出してもあの嬢ちゃんが恐いしな。やれやれ、あんたらを敵に回すのは神々よりおっかない気がするぜ」
呆れたように、エイトリは言った。




