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間話 或る少女の日記 第一頁
――あなたのことを憶えている。
穏やかに過ぎていた時間を、覚えている。
サレナママが焼いてくれるふわふわのチーズケーキ。
閉ざされた箱庭の世界でも、それでも私は幸せだった。
「綴葉、もう一切れいる?」
「わあ、ありがとう!お兄ちゃん!」
お兄ちゃんは優しく微笑んでいつも自分の分のチーズケーキを少しだけ多めに分けてくれた。
今でもわたしはチーズケーキが好きだけど、甘いはずなのに少しだけいつも苦い味がする。
――ある雨の朝、目覚めるともう兄はいなかった。
残されていたのは一枚の便箋だけだ。
――綴葉、君はどうか幸せに生きて。僕のことは、忘れてしまっていいよ。
「忘れるなんてできない。もう二度と会えないとしても私は絶対に忘れないから」
怒りに任せて涙で滲んだ便箋を粉々に千切った。
そして決めたのだ。いつかこの箱庭を抜け出して、彼のことを探しに行くと。
「待っててね……【紡】兄さん」




