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じぞうさん
そっとひらいたとびらから、茶筒のようなものがころがりでた。
「 ・・・じぞうさんだ・・・」
あわてて手でうけた親方が、それをやさしくてのひらでなぜた。
下駄屋のご隠居は、正夢をみたのか
だれかがつぶやくと、あつまった人だかりから、おお、とか、ああ、とか声があがり、またみんな手を合わせて目をとじた。
役人の中のひとりが、力をなくしたように倒れたが、きっとあの、『でるわけない』と口にした男だろう。
水でながしてきれいにしてもらった地蔵様は、さむかろうとセイベイがさしだした手ぬぐいで、親方が赤ん坊をまくようにしてつつんでやった。
まだ、泥の中にいたヒコイチの足にまたなにかあたり、下をみたが、亀はもう、いなかった。




